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笑顔ときどき鈍感

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「ねぇねぇ、もう轟さんに告っちゃえば?」

相馬は暇を持て余しているのか(それならば他人に仕事を押しつけなければいいのに)、同じくピークを過ぎて少し手持無沙汰になっていた俺に向かって悪魔の微笑みを浮かべた。
面白い展開を期待しているであろうその笑みは、俺にとっては頭痛の種でしかない。
はぁ、と少し大袈裟に溜息を一つ。

「ほらほら、そんなに悩むぐらいならさぁ、ね?だって、男の中では一番好きって言われてるんだから、自信持っていいと思うけどなぁ」

まぁ一度告白して微妙な雰囲気になったけれど、とは言わずに。
だけど、それは相馬の笑いを堪えているといった雰囲気から感じ取れる。
こいつは、本当に面白い展開になれば、誰が傷付こうがどうなろうが平気なのだろうかとさえ思えてくる。

「放っとけ。お前はもう喋んな、いい加減にしないと口縫うぞ」

「やだなぁ、アドバイスしてあげてるだけなのに」

相馬の目が、心外だ、と語っていた。
そのあと、少し睨みつけるように俺を見上げ、尚も忙しなく口を働かせる。

「佐藤君のためを思って言ってるんだよ?好きな人には、ちゃんと気持ち伝えないと。言葉にしなきゃ伝わらないことってあると思うんだ、そうでしょ?」

轟さんという鈍感の塊になら尚更、と続ける相馬に、俺の眉間に皺が寄り始める。
轟のことを鈍感だとこいつは言った。
だけど、彼女以上に鈍感なのは、目の前のこいつ。
何故なら、


俺の現在の想い人が、こいつ、相馬博臣だから。


そんな俺の気持ちなど露知らず、相馬は楽しそうな表情で俺に近付いてくる。

「ね、だから、早く告っちゃいなって!玉砕しても、骨くらいは拾ってあげるから」

何も気付いていないこいつの脳天気な笑顔に、せき止められていた想いが込み上げてきたと同時に、ぽんぽんと肩を叩く相馬の手を咄嗟にぐっと握り締める。
突然の俺の行動に驚いたのか、相馬がびくりと身体を震わせ、大きく目を見開いた。

「びっ、くりしたー。どうしたの、佐藤く、」

もう何も言わせまいと、もう片方の手も掴み、壁際に相馬を追い込んでだんっと押しつける。
少し強めに縫いつけた相馬の手首は、思っていたよりも細かった。

「いたっ痛いってば、佐藤君っ急にどうしたの?」

「お前、言葉でちゃんと伝えろっつったな?」

「え、うん。言ったけど…何か今の行動と関係あるの?」

苦笑いしながら、少しだけ身を捩じらせている。
だけど、ここから逃がすつもりは毛頭ない俺に、逃げ場はないと直感で悟ったのか、それ以上はぴくりとも動こうとはしなかった。
そうなれば、俺の独壇場だとでも言うべきか、ぐっと距離を縮めて、相馬の吐息が顔に触れる程にまで顔を近付ける。
流石にそこまでされればこいつも焦りを見せるしかないらしく、きゅっと唇を一文字に結んで目を左右に忙しなく動かしていた。

「あ、あの、佐藤君…?ちょっと近いかなぁ、なんて、あはは」

「相馬、ちゃんと聞けよ?今から言うことは、冗談じゃねぇからな」

相馬の言葉を無視して、真剣な声音で真っ直ぐとこいつを見つめる。
すると、相馬も俺の醸し出す雰囲気に圧されたのか、ぐっと黙って俺を見上げてきた。

「う、うん、何かな?」

「俺は、」

「うん」

「お前のことが、その、」

「うん」

俺の次の言葉を、今か今かと待ち望んでいるであろう相馬の期待の眼差し。
ごくり、と唾を飲み込む音が、やけに大きく響いた_気がした。


「お前のことが、


好きだ」


「うん………うん?」
作品名:笑顔ときどき鈍感 作家名:arit