笑顔ときどき鈍感
黙って返事を繰り返していた相馬が、あれ?と頭に疑問符を付けて首を傾げている。
それもそうだ、轟に想いを寄せているはずの俺が、まさか己に告白してくるわけがないと、そう思うのが普通だろう。
何とか現状を飲み込もうとしているのか、身体をぴしりと固まらせながらも必死に頭を動かしているようだ。
「言っとくが、俺は本気だぞ。お前のことを恋愛対象として見てた。一人の人間として好きなんだよ」
言った。
もう後戻りは出来ない。
身体が少しだけ熱い。
心臓の音が煩い。
「あの、佐藤君、俺…」
ゆっくりと、勿体ぶる様に口を開く。
もどかしい、と思いながらも、紡がれる言葉を黙って待つ。
「今の、すっごくドキドキした」
「…そうか」
と言うことは、もしかしなくても、俺の告白は成功なのか?
そんな期待に胸を高鳴らせていると、冷たい現実が刃物の様に全身に突き刺さる。
「これなら、轟さんも落ちるんじゃないかな!」
「…は?」
思わず口を突いて出た間抜け声。
こいつは何を言っているんだ?
今度は、俺が頭を捻らせる番。
相馬の頭の中で、どういう答えに辿り着いたのか不思議でならない。
すると、そんな俺の気持ちを読み取ったかのように、相馬が嬉々として笑いかけてきた。
「今の、轟さんにする告白の練習でしょ?」
「は!?」
「もー、それならそうと言ってくれなきゃ!吃驚しちゃったじゃん」
人が悪いなぁなんて笑い飛ばす相馬に、かちんと硬直する身体。
なんだ、こいつは。
一世一代の俺の告白を、笑って受け流すと言うのか。
いや、それ以前に、どこをどう受け取れば、これが対轟用の告白練習だと思えるんだ。
確かに、前置きとして『相馬』に話を聞けよ、と言ったはずなのだが。
ぐるぐると考え込んでいるうちに、手首を掴んでいた力が緩んでいたのか、相馬がするっと壁際から脱出していた。
「きっと、轟さんもドキドキだね!これなら、絶対信じてもらえると思う。あ、でも、俺にやったみたいに、強引に壁に押し付けちゃダメだよ?女の子なんだから、優しくしてあげなきゃ。わかった?」
ああ、頭が痛い、非常に痛い。
実は密かに好きなこいつの笑顔が、今はとてつもなく憎らしくて仕方ない。
「あ、こんな時間。俺もうあがりだ。それじゃあ佐藤君、お先にー」
ひらひらと手を振って背を向ける相馬に、最早何も言う気になれず。
呆気なく告白失敗。
「佐藤さん」
暫く壁に手をついたまま呆然としていると、背後から高めの声が聞こえてきた。
ゆっくりと振り向くと、山田が哀れだと言わんばかりの表情でこちらを見つめていた。
はっと我に返り、冷や汗をだらりと垂らす。
「山田、まさかお前、今の全部見て…」
「何も言わないでください!山田は佐藤さんを全力で応援してますから!」
ぐっと拳を握り締め、瞳からはきらきらと輝く何かを放っている。
明らかに面白そうと語っている彼女の目に相馬を見た気がして、ガンガンと鳴り響く頭の痛みが一層強くなった。