『空間X脱出』後遺症
ベル星人擬似空間事件により、ウルトラ警備隊のアマギ隊員はそのスカイダイビング嫌いにますます拍車がかかり、とうとうソガ隊員に背中を押してもらってもキリヤマ隊長に叱咤されても、飛行機から飛び出せなくなってしまった。
いつまでたっても降りてこないはるか上空のアマギ隊員を見上げ、キリヤマ隊長は嘆息した。
「全く、情けない奴だ」
同じように空を見上げながら、看護婦でもあるアンヌ隊員がキリヤマ隊長に近付く。
「ですが、隊長。アマギ隊員の場合、擬似空間の一件でスカイダイビングがトラウマになった恐れがあります。一度トラウマになってしまうと、治すのは難しいですわ…」
「しかし、同じ体験をしたソガは大丈夫だったぞ」
「ソガ隊員は元々スカイダイビングは苦手じゃありませんでしたが、アマギ隊員はそうじゃありません。隊長も知ってるでしょう?毎月嫌がっていたじゃありませんか」
アンヌ隊員の説明に、キリヤマ隊長も深く頷く。暫し考察してから、キリヤマ隊長はアンヌ隊員に問いを投げた。
「トラウマはそう簡単には治らない………だが、治せない訳じゃないんだな?」
質問の意図に気付き、アンヌ隊員も慎重に答えを返す。
「…専門家でないのではっきりとは言えませんが、緩和するぐらいなら可能だと思います」
「腰が引けてもダイビング出来るくらいには…か?」
「…はい」
「そうか」
暫らく考えをめぐらした後、キリヤマ隊長は後方に控えていた残りの隊員達―――フルハシ隊員・ダン隊員・ソガ隊員を振り返った。その中の一人に視線を止め、新たな任務を命令する為口を開く。
「アマギ隊員のトラウマを緩和してくれ、ソガ隊員!」
「え?!」
突然の事に驚きを隠せないソガ隊員。自分を指差しながら、彼は思わず問い返した。
「何故自分が…?!」
そんなソガ隊員に、キリヤマ隊長は代わらぬ口調で選抜した理由を挙げる。
「一緒にスカイダイビング中擬似空間に迷い込んだ。歳も近い上に(一歳違い)学生時代から仲が良いそうじゃないか。君ならアマギ隊員の事を良く知っている。まさに適任だ。頑張ってくれ」
「え…ええ~?」
それでも渋るソガ隊員に、
「…嫌か?」
世にも恐ろしいキリヤマ隊長の眼光が飛ぶ。
「イ…イエ!ありがたき幸せ!!」
眼光のあまりの鋭さにソガ隊員は本能で危険を察知し、あわてて敬礼をした。
フルハシ隊員とダン隊員が同情の色を湛えた瞳でソガ隊員を見守る中、キリヤマ隊長は満足気に頷いた。
「いざとなった時スカイダイビングができんと大変な事態に陥るかもしれないからな。しっかりやってくれよ。詳しい事はアンヌ隊員と相談しろ。確か、地球防衛軍の医師の中にも精神科医はいた筈だから、解らなかったらそっちにも相談しに行け」
とりあえず、暫らくはやる事に不自由しない事をソガ隊員理解した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ん~、つまり。嫌な印象しかないスカイダイビングの良い印象をアマギ隊員に刷り込めばいいんだよな?」
電話帳並に分厚い医学書を片手に持ち、ソガ隊員は先程アンヌ隊員に言われた事を簡潔にまとめてみた。実際はもっと複雑な説明を受けたのだが、いくらなんでも専門外を急に覚えろと言われても無理な話だ。
やたら重い医学書をダンベル代わりにし、地球防衛軍極東基地内にあるアマギ隊員の個室に向かって歩きながら、ソガ隊員は憂鬱そうに顔をゆがめた。
「今更、やっぱり無理です―――何て言っても、隊長の雷が落ちるだけだよな…」
普段は穏やかなキリヤマ隊長だが、一度怒るとどうにもならなくなって困る。オマケにとても決断が早い上に、重大な問題の答えをもあっさり出したりするので、どういう処分を下すかソガ隊員には全く想像つかない。
しかし、
「トラウマを治すなんて、俺に出来るか?」
かなり大きな疑問は残る。
正確には“完治”ではなく“緩和”だが、ソガ隊員にしてみればどちらも同じような物だった。
「どうもこういった仕事は苦手だよ…」
そんな弱音を吐いているうちに、ソガ隊員はアマギ隊員の個室前に到着した。一瞬躊躇いながらもブザーを押す。暫らくしてドアが開き、中から困惑気味のアマギ隊員が姿を表した。どうやら彼も、ソガ隊員同様今回の事は乗り気でないらしい。
「キリヤマ隊長から話は聞いてる。……よろしく頼む」
「あ…ああ、こちらこそ…」
ぎこちない握手を交わし、ソガ隊員はアマギ隊員の個室へと足を踏み入れた。基本的に、隊員の個室は皆同じである。休暇を取らない限り地球防衛基地から出る事が稀な隊員達に必要な物は割と決まっている為、個人が持ち込んだ数少ない荷物以外は至急品しかない。アマギ隊員の個室も同じで、ソガ隊員の個室にない物と言えば、部屋の隅にある机の上で散らばっている機械類ぐらいだった。
手持ち無沙汰に、持っていた医学書を意味もなく捲りながらソガ隊員は口を開いた。
「それじゃ、早速はじめようか…」
「…ああ、そこの椅子にでも座ってくれ」
アマギ隊員に進められ、ソガ隊員はテーブルとワンセットになっている椅子のドアに近い方に腰をおろした。向かい側にアマギ隊員も腰をおろし、神妙な表情で腕を組む。
それを上目遣いで確認してから、やはり無意味に医学書を捲り、ソガ隊員はこれから何をするのかを、大まかに説明した。
「―――っという事でだ、まだ具体的にどうするかは決まってないんだが、とりあえず色々試してみる事になると思う」
言い終ってから自分の言葉を吟味してみると、どうも牛乳に水を足したような説明をしたようで、流石にアマギ隊員はムッとするのではないかと、ソガ隊員は心配になった。何となく目を落としていた医学書から視線をアマギ隊員に移してみると、下手な心配などする必要もなく、彼は真剣な眼差しでソガ隊員を見ていた。
おもむろに深く頷くアマギ隊員。
「解ったよ…。それで、まず第一に何をすれば良い?」
先程の説明で何を解ったのか聞きたい衝動に駆られたが何とか押し止め、ソガ隊員はそれらしい口調になるよう気を付けながら、アンヌ隊員に聞くよう言われていた事を口にした。
「え~、例えばスカイダイビングが嫌いな理由とか…」
「そうだな―――実はどうも自殺行為のように思えて仕方ないんだ」
顎に手を当てながら真面目に答えるアマギ隊員。
「自殺行為?飛び降りるからか?」
「ああ。わざわざ飛び降りる事もないと思ってしまうんだ。別に高い所が苦手って訳じゃないけど、どうもね…」
「まぁ、確かに途中までは自由落下だから、そのままパラシュートを開かなければ自殺になるなぁ。その危機感を楽しむ人もいるとは思うけど、俺達の訓練は非常事態に備えてだ。自殺行為どころか自分の命を守る為の行為だぞ」
「解ってるけど、飛び降りる事に違いはないだろ…」
それまでソガ隊員に向けていた視線をそらすアマギ隊員。その仕草があまりに弱々しく、ソガ隊員は思わずアマギ隊員に手を伸ばした。力強く肩を掴み、なんとか元気付けようと試みる。
「そんなに気を落とすなよ。今回は精神の問題だから気長にって、隊長にも言われてるんだ。今日や明日に解決しなければいけない訳じゃないから、もう少し楽観的に考えよう」
いつまでたっても降りてこないはるか上空のアマギ隊員を見上げ、キリヤマ隊長は嘆息した。
「全く、情けない奴だ」
同じように空を見上げながら、看護婦でもあるアンヌ隊員がキリヤマ隊長に近付く。
「ですが、隊長。アマギ隊員の場合、擬似空間の一件でスカイダイビングがトラウマになった恐れがあります。一度トラウマになってしまうと、治すのは難しいですわ…」
「しかし、同じ体験をしたソガは大丈夫だったぞ」
「ソガ隊員は元々スカイダイビングは苦手じゃありませんでしたが、アマギ隊員はそうじゃありません。隊長も知ってるでしょう?毎月嫌がっていたじゃありませんか」
アンヌ隊員の説明に、キリヤマ隊長も深く頷く。暫し考察してから、キリヤマ隊長はアンヌ隊員に問いを投げた。
「トラウマはそう簡単には治らない………だが、治せない訳じゃないんだな?」
質問の意図に気付き、アンヌ隊員も慎重に答えを返す。
「…専門家でないのではっきりとは言えませんが、緩和するぐらいなら可能だと思います」
「腰が引けてもダイビング出来るくらいには…か?」
「…はい」
「そうか」
暫らく考えをめぐらした後、キリヤマ隊長は後方に控えていた残りの隊員達―――フルハシ隊員・ダン隊員・ソガ隊員を振り返った。その中の一人に視線を止め、新たな任務を命令する為口を開く。
「アマギ隊員のトラウマを緩和してくれ、ソガ隊員!」
「え?!」
突然の事に驚きを隠せないソガ隊員。自分を指差しながら、彼は思わず問い返した。
「何故自分が…?!」
そんなソガ隊員に、キリヤマ隊長は代わらぬ口調で選抜した理由を挙げる。
「一緒にスカイダイビング中擬似空間に迷い込んだ。歳も近い上に(一歳違い)学生時代から仲が良いそうじゃないか。君ならアマギ隊員の事を良く知っている。まさに適任だ。頑張ってくれ」
「え…ええ~?」
それでも渋るソガ隊員に、
「…嫌か?」
世にも恐ろしいキリヤマ隊長の眼光が飛ぶ。
「イ…イエ!ありがたき幸せ!!」
眼光のあまりの鋭さにソガ隊員は本能で危険を察知し、あわてて敬礼をした。
フルハシ隊員とダン隊員が同情の色を湛えた瞳でソガ隊員を見守る中、キリヤマ隊長は満足気に頷いた。
「いざとなった時スカイダイビングができんと大変な事態に陥るかもしれないからな。しっかりやってくれよ。詳しい事はアンヌ隊員と相談しろ。確か、地球防衛軍の医師の中にも精神科医はいた筈だから、解らなかったらそっちにも相談しに行け」
とりあえず、暫らくはやる事に不自由しない事をソガ隊員理解した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ん~、つまり。嫌な印象しかないスカイダイビングの良い印象をアマギ隊員に刷り込めばいいんだよな?」
電話帳並に分厚い医学書を片手に持ち、ソガ隊員は先程アンヌ隊員に言われた事を簡潔にまとめてみた。実際はもっと複雑な説明を受けたのだが、いくらなんでも専門外を急に覚えろと言われても無理な話だ。
やたら重い医学書をダンベル代わりにし、地球防衛軍極東基地内にあるアマギ隊員の個室に向かって歩きながら、ソガ隊員は憂鬱そうに顔をゆがめた。
「今更、やっぱり無理です―――何て言っても、隊長の雷が落ちるだけだよな…」
普段は穏やかなキリヤマ隊長だが、一度怒るとどうにもならなくなって困る。オマケにとても決断が早い上に、重大な問題の答えをもあっさり出したりするので、どういう処分を下すかソガ隊員には全く想像つかない。
しかし、
「トラウマを治すなんて、俺に出来るか?」
かなり大きな疑問は残る。
正確には“完治”ではなく“緩和”だが、ソガ隊員にしてみればどちらも同じような物だった。
「どうもこういった仕事は苦手だよ…」
そんな弱音を吐いているうちに、ソガ隊員はアマギ隊員の個室前に到着した。一瞬躊躇いながらもブザーを押す。暫らくしてドアが開き、中から困惑気味のアマギ隊員が姿を表した。どうやら彼も、ソガ隊員同様今回の事は乗り気でないらしい。
「キリヤマ隊長から話は聞いてる。……よろしく頼む」
「あ…ああ、こちらこそ…」
ぎこちない握手を交わし、ソガ隊員はアマギ隊員の個室へと足を踏み入れた。基本的に、隊員の個室は皆同じである。休暇を取らない限り地球防衛基地から出る事が稀な隊員達に必要な物は割と決まっている為、個人が持ち込んだ数少ない荷物以外は至急品しかない。アマギ隊員の個室も同じで、ソガ隊員の個室にない物と言えば、部屋の隅にある机の上で散らばっている機械類ぐらいだった。
手持ち無沙汰に、持っていた医学書を意味もなく捲りながらソガ隊員は口を開いた。
「それじゃ、早速はじめようか…」
「…ああ、そこの椅子にでも座ってくれ」
アマギ隊員に進められ、ソガ隊員はテーブルとワンセットになっている椅子のドアに近い方に腰をおろした。向かい側にアマギ隊員も腰をおろし、神妙な表情で腕を組む。
それを上目遣いで確認してから、やはり無意味に医学書を捲り、ソガ隊員はこれから何をするのかを、大まかに説明した。
「―――っという事でだ、まだ具体的にどうするかは決まってないんだが、とりあえず色々試してみる事になると思う」
言い終ってから自分の言葉を吟味してみると、どうも牛乳に水を足したような説明をしたようで、流石にアマギ隊員はムッとするのではないかと、ソガ隊員は心配になった。何となく目を落としていた医学書から視線をアマギ隊員に移してみると、下手な心配などする必要もなく、彼は真剣な眼差しでソガ隊員を見ていた。
おもむろに深く頷くアマギ隊員。
「解ったよ…。それで、まず第一に何をすれば良い?」
先程の説明で何を解ったのか聞きたい衝動に駆られたが何とか押し止め、ソガ隊員はそれらしい口調になるよう気を付けながら、アンヌ隊員に聞くよう言われていた事を口にした。
「え~、例えばスカイダイビングが嫌いな理由とか…」
「そうだな―――実はどうも自殺行為のように思えて仕方ないんだ」
顎に手を当てながら真面目に答えるアマギ隊員。
「自殺行為?飛び降りるからか?」
「ああ。わざわざ飛び降りる事もないと思ってしまうんだ。別に高い所が苦手って訳じゃないけど、どうもね…」
「まぁ、確かに途中までは自由落下だから、そのままパラシュートを開かなければ自殺になるなぁ。その危機感を楽しむ人もいるとは思うけど、俺達の訓練は非常事態に備えてだ。自殺行為どころか自分の命を守る為の行為だぞ」
「解ってるけど、飛び降りる事に違いはないだろ…」
それまでソガ隊員に向けていた視線をそらすアマギ隊員。その仕草があまりに弱々しく、ソガ隊員は思わずアマギ隊員に手を伸ばした。力強く肩を掴み、なんとか元気付けようと試みる。
「そんなに気を落とすなよ。今回は精神の問題だから気長にって、隊長にも言われてるんだ。今日や明日に解決しなければいけない訳じゃないから、もう少し楽観的に考えよう」
作品名:『空間X脱出』後遺症 作家名:uhata