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『空間X脱出』後遺症

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 力のない視線と微笑をソガ隊員に向け、アマギ隊員は小さく頷いた。
「…それもそうだな。気長にやろう」
 ソガ隊員はアマギ隊員から手を離し、
「よし。それじゃスカイダイビングが嫌いな理由は解ったから、次に擬似空間事件の時の事を考えてみようか」
 更に話しを続ける為、両手を組んで身を乗り出した。

 

 

     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「上手くいっているようですね」
 一日の勤務時間を終え、基地内にある個室に向かっていたソガ隊員は、唐突に後方からかけられた声に振り返った。
「ダンかぁ。…ビックリさせるなよ!」
 振り返った先にいたのは同僚のダン隊員だった。屈託のない笑顔を浮かべ、スミマセンと謝りながらソガ隊員の隣に立つ。
 真正面からソガ隊員の瞳を覗きこみ、同じ言葉を繰り返すダン隊員。
「上手くいっているんですね?」
「アマギ隊員の事か?」
 苦笑しながら答えるソガ隊員にダン隊員は大きく頷く。ソガ隊員が片手に持っている青いファイルを持ち上げながら首を横に振ると、ダン隊員は驚いた様子で目を見開いた。
「え?違うんですか?」
「ああ、残念だけど上手くいってるとは言えない」
「僕の勘違いだったのか…。悪い事を言いいましたか?」
 すまなそうに見上げてくるダン隊員に、ソガ隊員は微笑を向けた。
「嫌、別に。それよりどうして上手くいっていると思ったんだ?」
 少し気になった疑問をソガ隊員が口にしてみると、ダン隊員は微かに口の端を引き上げ、簡単に、だが解りやすく答えを返した。
「それはソガ隊員が嬉しそうだったからですよ」
 そして、それは当たっていた。
 急に騒ぎ出した心臓の音がダン隊員に聞こえてないかと心配しながら、ソガ隊員は確認の為に口を開いた。
「…後ろから見ても解る程に?」
「ええ。あんまり嬉しそうだったから、アマギ隊員の事が上手くいっていると思い込んだんです」
 悪気のない笑顔でそう言い切ると、ダン隊員は就寝のあいさつをして自身の個室へと向かった。その姿が視界から消えてしまうまで、ソガ隊員はその場を動けなかった。動いたら彼に気付かれてしまいそうだった。自分が嬉しくて仕方ない理由を…。
「…妙に鋭いからな、ダン隊員は…」
 やっとそれだけを口にして、ソガ隊員は嘆息した。歩く気になれず、通路の壁に身を預け、乾いた音を立てながら青いファイルを捲り始めた。
 ファイルの中にはアマギ隊員のデータが入っている。それ以外ないと言って良い。身長体重から経歴・趣向・体質等々、あらゆるデータがキチンと整理された状態で収まっている。トラウマを解消する為にはアマギ隊員の情報が何かと必要だろうと思って、ソガ隊員が本人の協力も得て集めた、多分、世界で一番アマギ隊員に詳しいファイル。
 だが、実はトラウマだけの為に集めたデータではない。
 一枚目の書類に貼られたアマギ隊員の正面写真に視線を落とす。写真の中のアマギ隊員は凛々しくこちらを見つめていた。その瞳を―――輪郭を指でそっとなぞっていく。
「いつまで完治してほしくないと思ってるなんて、誰にも言えないな…」
 新たに生まれた気持ちの痛みに、思わずソガ隊員は眉間に皺を寄せた。




 End
作品名:『空間X脱出』後遺症 作家名:uhata