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彗クロ 1

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「貴方を教育されたという何某は、余程聡明な方のようです。我々の誰も想定しえなかったこの状況――貴方の被験者が権威ある身分の人間であり、それによって貴方自身の人権が脅かされかねない事態に陥ることを、あらかじめ見通していたかのようだということです」
「んな、アホな話……」
「でなければ、野に生きる一介のレプリカに貴族社会の内情を教え込む必要性が考えられません。何せ、オリジナルであっても、人によっては生涯知らずともさして支障のない世界です。……一体何者でしょうね? 貴方のおじいさまとは」
 警戒と怪訝も色濃い少年の双眼が、困惑混じりに、初めて宙を泳いだ。
 ――疑問は初めからあった。これほどに高度な自我を発達させた見事なレプリカ。年格好の誤差こそあれ、キムラスカ王室の血族たるを疑う余地なき赤毛の少年を、三年間、方々に光る軍の目から隠しおおせた『保護者』の存在。セントビナーとエンゲーブ、いずれも『彼』に縁の浅からぬ町の目と鼻の先で、三年目の今になって、唐突に白日の切れ端に姿を曝した運命の子供。……連続する事象に符丁を感じるということはすなわち、何者かの意図の介在を意味する。
 誰がこの子を隠していたのか?
 しかし疑問を解消するための折衝は、ジェイドが切り出そうとしたその直前に、招かれざる客によって永遠に遮られてしまう。とは言えこの場合、息せき切らして報告を持ち込んだ同輩にはなんら罪はない。
「――ジェイド、あいつは真性のバカだ!」
 見張り台からの扉を開け放つや否や、開口一番苦々しく吐き捨てたガイの真意を確かめる猶予はなかった。
 回廊を上り近づいてくる足音は軍靴を思わせた。従軍経験者特有の秩序ある足運びの中、隠そうともせず荒々しく響く苛立ちの気配に来訪者の正体を悟り、ジェイドは実に三年ぶりに、まともに狼狽せずにはいられない己を自覚した。
 ……少年の懸念は、いささか的外れではある。しかし、被験者の存在に対してごく素直に生命の危機を察知したその感性を笑い飛ばしてやることができなかった原因は、まさしくこの足音の主にこそあるのだ。
 インドア肌を自認するネクロマンサーの足をして、一生に何度発揮するか知れない機敏さで正面扉へと詰め寄るも、招かれざる客の来訪を阻止することは叶わなかった。見張りの兵との衝突もそこそこ、観音開きの大扉は強引に突破された。
 鮮血を象徴する赤が網膜に沁みつく。
 少年たちが弾かれたように立ち上がる。事態についていけていないのもあからさまなメティスラヴィリを、レグル・フレッツェンが背後に庇う。目端を引き裂かんばかりに見開かれた碧玉の瞳に宿るのは、率直な驚愕と、それを覆い尽くして余りある、恐怖。
 突如現れた赤毛の男は、後退さる少年たちの一塊を高みより見下し、平時よりいっそう不機嫌そうな緑の瞳をさらに剣呑に細めた。
 赤と緑――相似した色彩を持つこの青年の名を、ルーク・フォン・ファブレという。

 事態は、最悪のシナリオへの軌跡を描きつつあった。



作品名:彗クロ 1 作家名:朝脱走犯