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摂氏0度

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虫眼鏡を利用して、太陽の光を一点に集中させる。それを黒い紙に集めると次第に煙が上がり、一定の熱を持ったところで発火する。

「ええ。それは勿論知ってる。けれど
太陽が無かったら何の意味もないでしょ」

南極には一日中太陽の出ない白夜という日が
一年のうち数ヶ月ある。
日本の丁度クリスマスの季節は白夜の期間と重なるのだ。

「だからアンタは虫眼鏡があったって、それ以上のものがあっても太陽の光で火を創る事は出来ない。魔法でも使わない限りね」

その言葉に天草は満足したようにポケットの中から一枚の紙切れを取り出した。

「須磨寺の口座から最近頻繁にヨーロッパへ金が動いてるみたいですぜ?」

「ついに動いたってこと?」
「さぁ?案外向こうは準備万端で迎撃体制かもしれないですけどね?」

縁寿はガタンと席を立つと手早く制服のポケットに写真を詰め込んだ。

「どうされたんです?お嬢」
「どうせ此処も危ないんでしょ?行くわよ。
アンタその為に来たんでしょ?」

その言葉に天草は何も云わずに席を立つ。

「あ、そうだ、ついでにもう一つゲームしません?」

「今度は何よ?」

小さめのボストンバッグに無造作に詰め込まれる現金を眺めながら天草は呟いた。

「オレが嘘ついてるか当ててみてくれません?」

その言葉に縁寿の手が止まる。

カチャっと後頭部に冷たい感覚が当たる
それが何か分かった縁寿は天草の方を振り向く事なく淡々と作業を続ける。

「実は、小比木さんに雇われたんじゃなくて須磨寺に雇われてるんですよ」
「雇われてる理由は?」

「勿論、決まってるじゃないですか」

カチャっと回転弾装に弾が詰められる。

「お嬢が邪魔だから」

その言葉に縁寿はふっと笑う。
「駄目ね、ええ、全然駄目だわ」

「へえ?この状況で?」

「ええ、だって。興味がないから」

生も死も。
あの日すべて失った。
失ったからそれに今更縋るなんてしない。

「だから全然駄目。アンタが実はお兄ちゃんっていう方がよっぽど私の心臓を止められるかもね」

そう言って笑う縁寿
そしていつものように二人で部屋を出た。


END
作品名:摂氏0度 作家名:伊月