大きなシオン ～自分探し・成長編～
「ラーメンチャーハンセット入ります！」「はいょ～！セット１！」
厨房の中で左から右へ動き回る。
朝１０時から夜中の０時まで、ただただ働いた。
地元の高校になんとか入った。義務ではない勉強をしてみたかった。
入学式に両親は泣きそうな顔で俺にカメラを向けていた。
「竜、この記事呼んでみて。」入学式から何日が過ぎた頃、母親が新聞を持ってきた。
地方版の小さな記事だった。「恐喝・暴行の１９歳の少年ら逮捕」の見出し。
「これ、中学の竜を殴った子達のグループだよ。」
一瞬身震いがした。でも、俺はもう関係ない。
変わろうと思った。
先生からは拒否オーラは感じられない。教室の机と椅子はゆっくり足を伸ばせる。
同級生はいろんな色で違った匂いがした。
休み時間になると俺のまわりには女子がいる。
「髪何使って染めてる？」「どこの美容院行っるの？」「そのシャツどこで買った？」
「今度カラオケ行かない？」「シャメ撮ろっか？」少しうるさいけど、黙って笑っている。シャメは勘弁してもらっている。
身長１７５、細身、髪栗色。
身長はシオン越えた。
髪は東京の有名店でチーフしていた人が開いた美容院に行っている。
洋服は家から電車で３０分くらいのお気に入りショップで買っている。
「ビジュアル系だね～。」シオンは喜んでくれる。
自分はまだ大学で勉強するからって化粧なんかしない。長い髪も黒いまま。パーカーにGパン、スニーカー。鼻の毛穴パックするくらいらしい。
「プログラマーは就職が難しいらしいけど、目指すのもいいかもしれないね。」
「会津の大学行けば毎日飯盛山の墓参りいけるよ。」
（俺は毎日墓参りは嫌だ！）
「深海魚の研究者もいいかも。」
（深海魚は小学生の時の話だろ！）
「ゲーム作る人憧れるけど夢の世界かな？」
（チャットで知り合った師匠とアキバに行ったりしたけど、俺自分の限界知った！）
「美容師とかスタイリスト系にいってみる？」
（自分の髪は凝るけど、他人の髪触るの嫌かも？）
「建築家」「ジャーナリスト」などなど。どんな選択肢もあると教えてくれる。
「心理学の勉強でもしてみる？」それも良いかもしれない。
「お～お前、竜じゃねぇ？！」
校門の前でたむろしている男子の中から声がした。
「俺だよ！忘れちゃった？」「何？おまえ、このがっこ来てんの？」「高校なんか入っちゃったの？ダッセー～！」
一人の顔に見覚えがあった。
前の彼女の家まで迎えにきた奴だ。
バイクで俺を地獄に連れって行った。二度と見たくない顔。
俺は無視して通り過ぎた。
「未成年で逮捕されるとどうなる？」
夕飯食いながら親に聞いた。
「少年院に送られなければすぐ家に帰ってくるのかなぁ？良く解らないなあー。」
「あの子達の事？もう関係ないでしょ？」
関係なんか持ちたくもない！
その夜は良く眠れなかった。
学校へ行ってもあいつらには遇わない。
「今日は絶対カラオケ！」「今日はたっくんも首に縄つけて連れて行くよ～。」
放課後クラスメイトが男女８人くらい集合した。みんなテンション高い。Box行った。
ラップ系しか歌えない俺。でも女子にキャーキャー言われて悪い気はしなかった。
仕方なくプリクラにも付き合った。
「歌ったね～。」「また来ようね？たっくん！たまにはこういうのもいいでしょ？」
店出ようとしたら、なんか視線感じた。
「たっくん～俺達とも遊ばな～い。仲間じゃん。」
「先輩がせっかく誘ってやってるんだぜ～。返事しろよな～。」
バイクが言った。
その日からお迎えが始まった。
校門辺りでたむろしている。
不良がたむろっていたら学校が注意するだろうって？
見た目不良なんかいない。
全員が髪染めているわけでもない。パンツにチェーンくらい誰でもしている。
派手なシャツなんか着ていない。中には短い髪に黒縁メガネもいる。見るからに優等生。
メガネが裏ボス。バイクはパシリ。髪が派手なのが表ボス。人の良さそうなデブ。陽に焼けたスポーツ少年。影の薄いノッポ。女みたいな顔してる奴もいる。
何もしない。
静かに話していて、時々女子に声かけてクスクス笑っているだけ。
毎日いるわけでもない。
学校に行けなくなった。
行こうと思っても身体が動かない。
たまに行けそうな気がしてシャワーしてみる。１時間かかるから早く起きないと学校に間に合わない。夜中にウトウトするだけだから朝早くには起きられない。
「遅れてもいいから行かないと。単位が取れないよ。」
時間をずらして親が交代で車送迎すると言った。
生徒玄関にぴったり車をつけてすぐ中に入る。
帰りは駐車場で待っていて俺の顔が見えると生徒玄関に車を動かす。
親も仕事がある。毎日は無理だ。
そんな事長くは続かない。
そこまでしてこそこそと学校に行く意味がわからなくなった。
堂々と学校に行ってバイク達を無視し続ける気力もなくなった。
「竜！そろそろ起きないと学校終わっちゃうよ！」
俺はまた部屋に鍵をかけ始めた。親がドアを叩いても無視するようになった。
同級生に会いたくて、時々学校にいった。
でも、休み時間に俺の周りにくる仲間は少しづつ減った。
授業にもついていけくなった。テストは半日受けたけど惨敗だった。
街にも出れない。あいつらは車使っているから、どこで見つかってしまうかわからない。
車に乗せられたら終わりだ。俺は仲間になんかならない。
中学の時ゲーセンで知り合って、時々バイクの後ろに乗っけてもらって遊んだ。
煙草吸って酒も飲んでいたけれど、暴れているところなど見たことなかった。
拒絶ばかりだったその頃の俺にとっては、話のわかる良い人達だった。優しい人達だと思っていた。
そう、あの「仲間の儀式」までは。
あの夜、歪んで腫れて出血していた俺の顔みて、母親は声も出さなかった。
次の日病院に連れて行って診断書もらって警察に通報するつもりだったようだ。
それをどこかで耳にしたのか。バイクの母親が菓子持って誤りに来た。
女のような顔した奴の親も謝りに来た。
警察に言わない代わりに俺には近づかない約束だった。
謝罪したのは親達。あいつらは警察に行きたくなかっただけ。
先の約束なんてとっくに時効なんだろう。
シオンが中学とはスケール違うよと教えてくれていた高校生活。
運動会も学校祭にも出られなかった。
三年間学校に行けるとは思わない。卒業も無理だろうと思った。
学校とあいつらに縛られる生活は耐えられない。また壊れてしまう。
一年足らずの高校生は終わり。退学した。
この街に居たくなかった。
隣町のアパートで一人暮らしを始めた。
バイクの奴は原付だった。俺はその上の免許取った。親が２５０のバイク買ってくれた。
仕事は自分で探した。汚い字で履歴書何枚も書いた。
バイクで募集の張り紙のある店を探した。
「履歴書？いいよ見せなくて。話きかせて。」
面接の店長は煙草ふかしてのけぞっている。
「明日から来れるかな？店の服用意しておくよ。」そう言われた。ヤッタ！
「仕事決まったよ！ラーメン屋だよ！」俺はうれしくて親に電話した。
久しぶりに高揚した気分でバイクに乗ってアパートに帰った。
店の営業時間は１１：３０～２２：００
厨房の中で左から右へ動き回る。
朝１０時から夜中の０時まで、ただただ働いた。
地元の高校になんとか入った。義務ではない勉強をしてみたかった。
入学式に両親は泣きそうな顔で俺にカメラを向けていた。
「竜、この記事呼んでみて。」入学式から何日が過ぎた頃、母親が新聞を持ってきた。
地方版の小さな記事だった。「恐喝・暴行の１９歳の少年ら逮捕」の見出し。
「これ、中学の竜を殴った子達のグループだよ。」
一瞬身震いがした。でも、俺はもう関係ない。
変わろうと思った。
先生からは拒否オーラは感じられない。教室の机と椅子はゆっくり足を伸ばせる。
同級生はいろんな色で違った匂いがした。
休み時間になると俺のまわりには女子がいる。
「髪何使って染めてる？」「どこの美容院行っるの？」「そのシャツどこで買った？」
「今度カラオケ行かない？」「シャメ撮ろっか？」少しうるさいけど、黙って笑っている。シャメは勘弁してもらっている。
身長１７５、細身、髪栗色。
身長はシオン越えた。
髪は東京の有名店でチーフしていた人が開いた美容院に行っている。
洋服は家から電車で３０分くらいのお気に入りショップで買っている。
「ビジュアル系だね～。」シオンは喜んでくれる。
自分はまだ大学で勉強するからって化粧なんかしない。長い髪も黒いまま。パーカーにGパン、スニーカー。鼻の毛穴パックするくらいらしい。
「プログラマーは就職が難しいらしいけど、目指すのもいいかもしれないね。」
「会津の大学行けば毎日飯盛山の墓参りいけるよ。」
（俺は毎日墓参りは嫌だ！）
「深海魚の研究者もいいかも。」
（深海魚は小学生の時の話だろ！）
「ゲーム作る人憧れるけど夢の世界かな？」
（チャットで知り合った師匠とアキバに行ったりしたけど、俺自分の限界知った！）
「美容師とかスタイリスト系にいってみる？」
（自分の髪は凝るけど、他人の髪触るの嫌かも？）
「建築家」「ジャーナリスト」などなど。どんな選択肢もあると教えてくれる。
「心理学の勉強でもしてみる？」それも良いかもしれない。
「お～お前、竜じゃねぇ？！」
校門の前でたむろしている男子の中から声がした。
「俺だよ！忘れちゃった？」「何？おまえ、このがっこ来てんの？」「高校なんか入っちゃったの？ダッセー～！」
一人の顔に見覚えがあった。
前の彼女の家まで迎えにきた奴だ。
バイクで俺を地獄に連れって行った。二度と見たくない顔。
俺は無視して通り過ぎた。
「未成年で逮捕されるとどうなる？」
夕飯食いながら親に聞いた。
「少年院に送られなければすぐ家に帰ってくるのかなぁ？良く解らないなあー。」
「あの子達の事？もう関係ないでしょ？」
関係なんか持ちたくもない！
その夜は良く眠れなかった。
学校へ行ってもあいつらには遇わない。
「今日は絶対カラオケ！」「今日はたっくんも首に縄つけて連れて行くよ～。」
放課後クラスメイトが男女８人くらい集合した。みんなテンション高い。Box行った。
ラップ系しか歌えない俺。でも女子にキャーキャー言われて悪い気はしなかった。
仕方なくプリクラにも付き合った。
「歌ったね～。」「また来ようね？たっくん！たまにはこういうのもいいでしょ？」
店出ようとしたら、なんか視線感じた。
「たっくん～俺達とも遊ばな～い。仲間じゃん。」
「先輩がせっかく誘ってやってるんだぜ～。返事しろよな～。」
バイクが言った。
その日からお迎えが始まった。
校門辺りでたむろしている。
不良がたむろっていたら学校が注意するだろうって？
見た目不良なんかいない。
全員が髪染めているわけでもない。パンツにチェーンくらい誰でもしている。
派手なシャツなんか着ていない。中には短い髪に黒縁メガネもいる。見るからに優等生。
メガネが裏ボス。バイクはパシリ。髪が派手なのが表ボス。人の良さそうなデブ。陽に焼けたスポーツ少年。影の薄いノッポ。女みたいな顔してる奴もいる。
何もしない。
静かに話していて、時々女子に声かけてクスクス笑っているだけ。
毎日いるわけでもない。
学校に行けなくなった。
行こうと思っても身体が動かない。
たまに行けそうな気がしてシャワーしてみる。１時間かかるから早く起きないと学校に間に合わない。夜中にウトウトするだけだから朝早くには起きられない。
「遅れてもいいから行かないと。単位が取れないよ。」
時間をずらして親が交代で車送迎すると言った。
生徒玄関にぴったり車をつけてすぐ中に入る。
帰りは駐車場で待っていて俺の顔が見えると生徒玄関に車を動かす。
親も仕事がある。毎日は無理だ。
そんな事長くは続かない。
そこまでしてこそこそと学校に行く意味がわからなくなった。
堂々と学校に行ってバイク達を無視し続ける気力もなくなった。
「竜！そろそろ起きないと学校終わっちゃうよ！」
俺はまた部屋に鍵をかけ始めた。親がドアを叩いても無視するようになった。
同級生に会いたくて、時々学校にいった。
でも、休み時間に俺の周りにくる仲間は少しづつ減った。
授業にもついていけくなった。テストは半日受けたけど惨敗だった。
街にも出れない。あいつらは車使っているから、どこで見つかってしまうかわからない。
車に乗せられたら終わりだ。俺は仲間になんかならない。
中学の時ゲーセンで知り合って、時々バイクの後ろに乗っけてもらって遊んだ。
煙草吸って酒も飲んでいたけれど、暴れているところなど見たことなかった。
拒絶ばかりだったその頃の俺にとっては、話のわかる良い人達だった。優しい人達だと思っていた。
そう、あの「仲間の儀式」までは。
あの夜、歪んで腫れて出血していた俺の顔みて、母親は声も出さなかった。
次の日病院に連れて行って診断書もらって警察に通報するつもりだったようだ。
それをどこかで耳にしたのか。バイクの母親が菓子持って誤りに来た。
女のような顔した奴の親も謝りに来た。
警察に言わない代わりに俺には近づかない約束だった。
謝罪したのは親達。あいつらは警察に行きたくなかっただけ。
先の約束なんてとっくに時効なんだろう。
シオンが中学とはスケール違うよと教えてくれていた高校生活。
運動会も学校祭にも出られなかった。
三年間学校に行けるとは思わない。卒業も無理だろうと思った。
学校とあいつらに縛られる生活は耐えられない。また壊れてしまう。
一年足らずの高校生は終わり。退学した。
この街に居たくなかった。
隣町のアパートで一人暮らしを始めた。
バイクの奴は原付だった。俺はその上の免許取った。親が２５０のバイク買ってくれた。
仕事は自分で探した。汚い字で履歴書何枚も書いた。
バイクで募集の張り紙のある店を探した。
「履歴書？いいよ見せなくて。話きかせて。」
面接の店長は煙草ふかしてのけぞっている。
「明日から来れるかな？店の服用意しておくよ。」そう言われた。ヤッタ！
「仕事決まったよ！ラーメン屋だよ！」俺はうれしくて親に電話した。
久しぶりに高揚した気分でバイクに乗ってアパートに帰った。
店の営業時間は１１：３０～２２：００
作品名：大きなシオン ～自分探し・成長編～ 作家名：まこと