無垢な毒
彼女ができた。隣のクラスのかわいらしい女の子だった。
告白したのは彼女からだ。告白される1週間前まで、彼女と話したことはなかった。名前と顔は知っていた。電話で親友から聞かされていたのだ。
電話自体はいつものことだった。学校で毎日顔を合わせるくせに、毎日電話で話した。特別な話題なんて何もなかったが、白石はたった1分でも謙也の声が聴ければそれで良い、と思っていた。
『実はな、俺、好きな子おんねん』
『……そうなんや、初耳やわ』
『やって、誰にも言うてへんし。白石やったらええかなあって』
『誰、なん?』
『隣のクラスの――……』
白石の心は一気に冷えた。氷点下、身が凍りつくほどに冷たい気がした。その傍ら、最近よく謙也と話している女子か、とどこか冷静な頭で考える。
『……そうなんや。告るん?』
『やー、最近ええ感じやと思うねんな。告ったらいけるんちゃうかと思って。せやから近いうちに告ると思う』
『そうかー。頑張れよ』
『おう! おおきにな、白石! あ、ほな今日そろそろ切るわ。宿題忘れてた』
『俺もせなあかん。ほななケンヤ、また明日』
『おう、おやすみー』
『おやすみ』
白石はいつも通りの優しい声音で、電話を切った。携帯のディスプレイを見つめる瞳は、ひどく冷たかった。
翌日、白石は彼女に初めて話しかけることになる。そこからは簡単だった。
* * *
彼女の家に誘われた。恥ずかしそうに、今晩は親がいないから泊まっていってとも告げられた。へーそうなんや、と軽く返しながら、ああ、こらやることは一つやろなあと思うと億劫だった。しかし彼女はあくまで恋人だ。恋人から誘われて断るのもおかしな話だ。夕方、重い気分を引き摺りながら白石は彼女の家に向かった。途中、コンドームも買った。
「蔵、これ、何なん」
(あ、油断した)
彼女が風呂を上がった後、白石も2階の彼女の部屋を出てバスルームに向かった。階段を降りきったところで、携帯を部屋に置き忘れてきたことを思い出し、それを回収に部屋に戻ったところだった。案の定、勝手に携帯を見られていた。勝手にプライベートを暴く行為に、正直殴ってやりたいぐらい腹が立ったがぐっと堪える。
白石は鼻先に突きつけられた自分の携帯のディスプレイを見つめた。発信履歴が開かれていた。一つの名前がずらりと並んでいる。
告白したのは彼女からだ。告白される1週間前まで、彼女と話したことはなかった。名前と顔は知っていた。電話で親友から聞かされていたのだ。
電話自体はいつものことだった。学校で毎日顔を合わせるくせに、毎日電話で話した。特別な話題なんて何もなかったが、白石はたった1分でも謙也の声が聴ければそれで良い、と思っていた。
『実はな、俺、好きな子おんねん』
『……そうなんや、初耳やわ』
『やって、誰にも言うてへんし。白石やったらええかなあって』
『誰、なん?』
『隣のクラスの――……』
白石の心は一気に冷えた。氷点下、身が凍りつくほどに冷たい気がした。その傍ら、最近よく謙也と話している女子か、とどこか冷静な頭で考える。
『……そうなんや。告るん?』
『やー、最近ええ感じやと思うねんな。告ったらいけるんちゃうかと思って。せやから近いうちに告ると思う』
『そうかー。頑張れよ』
『おう! おおきにな、白石! あ、ほな今日そろそろ切るわ。宿題忘れてた』
『俺もせなあかん。ほななケンヤ、また明日』
『おう、おやすみー』
『おやすみ』
白石はいつも通りの優しい声音で、電話を切った。携帯のディスプレイを見つめる瞳は、ひどく冷たかった。
翌日、白石は彼女に初めて話しかけることになる。そこからは簡単だった。
* * *
彼女の家に誘われた。恥ずかしそうに、今晩は親がいないから泊まっていってとも告げられた。へーそうなんや、と軽く返しながら、ああ、こらやることは一つやろなあと思うと億劫だった。しかし彼女はあくまで恋人だ。恋人から誘われて断るのもおかしな話だ。夕方、重い気分を引き摺りながら白石は彼女の家に向かった。途中、コンドームも買った。
「蔵、これ、何なん」
(あ、油断した)
彼女が風呂を上がった後、白石も2階の彼女の部屋を出てバスルームに向かった。階段を降りきったところで、携帯を部屋に置き忘れてきたことを思い出し、それを回収に部屋に戻ったところだった。案の定、勝手に携帯を見られていた。勝手にプライベートを暴く行為に、正直殴ってやりたいぐらい腹が立ったがぐっと堪える。
白石は鼻先に突きつけられた自分の携帯のディスプレイを見つめた。発信履歴が開かれていた。一つの名前がずらりと並んでいる。