PUPPY LOVE
(お前の正義を守れ、だって?)
リボーンはヴァリアー隊の下っ端を脅しつけて車を仕度させると、空港へとすっ飛んで行った。脅され、車を持ち出して運転までする羽目になった隊員は、戻ったらどんな目に遭うか、最早不幸であるとしか言いようがなかった。
マーモンはリボーンが部屋を出て行くそれすら見送らず、ソファにどっかと腰を下ろした。
(あぁそうさ、だからこそここにいるんじゃないか。金が稼げて能力も腐らせることはない、最高の環境だ)
彼が言ったことのひとつひとつを反芻しては、苛々として絨毯が敷き詰められた床を何度も音を立てて踏みしめる。
(不様な奴)
いつものように余裕たっぷりの、冷静の面をつけてその実、恋人の失踪に焦りと苛立ちで頭がいっぱいになった男。相手が日本に行ったと知っているなら真っ直ぐ空港へ向かえばいいものを、情報に振り回されるように無駄足を踏んでいる、これを不様と言わず何と言うのだろう。しかしそれすらリボーンは笑って受け入れている。
(……難解だ)
いつの間にか床を踏みしめるのを止め、代わりに人差し指の爪を噛み出していたマーモンに向かい、小さな物が飛んできた。マーモンがそれを苦もなく避けると、今度はその避けた方へ同じ物が飛んでくる。そんなことを二、三度繰り返すと、次に飛んできた物を顔の前で掴み取った。
「ベル、何の真似?」
「そりゃこっちのセリフ」
ベルフェゴールは相変わらず向かいのソファに半ば寝そべるような格好をして、マーモンに投げつけた菓子を手の上でちゃらちゃら踊らせている。
「さっき俺に聞こえないように言ってたヤツ、何?まさか悪口とか?」
ししし、と肩を揺すりながら、ベルフェゴールはまた掌の菓子を投げつけ、マーモンはそれを掴み取る。
「そんなに暇じゃないみたいだったよ。それよりベル」
「何だよ」
「ジェリービーンズ投げるの、止めてくれない?」
「いーじゃん、遊べよ」
「考え事しているんだ、放っておいてくれる?」
「どうせまた預金のことだろ。好きだねぇ」
それが言い終わるか終わらないかの内に、マーモンは辺りに散らばったジェリービーンズと掴み取ったそれを手にソファを立った。
小さなヘチマのような形のそれを掌に転がしながらベルフェゴールの傍へ行くと、彼の手やテーブルの上のボンボン皿にあった残りの菓子を全て自分の手に移し変えた。
「マーモン?」
さすがにまずいと思ったのかソファから退こうとしたが間に合わず、ジェリービーンズは起き直ったベルフェゴールの頭上からバラバラと振り撒かれた。色とりどりの菓子は、彼の王冠や、髪や、顔や、体に当たりながらそこいら中に散らばった。
「何すんだよ!?」
「構ってほしいんでしょ」
「そーゆーことじゃないっての!」
そう言って伸びてきたベルフェゴールの手がマーモンの手首を掴んだ。
あっ、と思う暇もなくその体はころりとベルフェゴールの膝の上に納まり、両腕に抱きすくめられていた。
ふいのことに、マーモンはまるで捕えられた小鳥のように体をばたつかせ、何の真似さ、と慌てた声で言った。
「離してよ!」
「いーじゃん、ちょっと前までこんなのいつもだったのに」
不満気に答えながら、膝の上でまだ抵抗を続けているマーモンの頭を胸に抱きこむと、重力に流されるままごろりとソファに仰向けになった。勢い、二人の足はずるずると床に流れていく。
「なー、なんで?」
「大きくなったのに、おかしいだろ」
「そうかなぁ」
納得いかない、といった風のベルフェゴールの声に、マーモンをそっと睫を伏せた。頭の中に、恋人を追う不様な男の声が蘇る。
(エゴさ)
2008.11.30 SC/O0
作品名:PUPPY LOVE 作家名:gen