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認識は明日イーハトーブで

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だから、それは彼の奔放な自由というもの、それを閉ざす本質的な理由にはならないんだと本田は察した。
たとえばこの「美しい」と簡単に直喩出来てしまうやわらかな檻にフランシスを閉じ込めて、朝露にひたされて羞恥に染まる花の茎をそうするように逃げる理由を一つひとつ手折ってしまって、幾年も洞窟の奥で蹲って耐え忍んだ湖の色で染めた縄でその手足をいざ縛したと喜んでみたとしても、そのいかにも奔放な、自由な、したたかさと無垢とを同時に孕んだ「彼という個体」を手に入れたことにはたぶんならない。本田にはそれが心地よくもあったし、ある種の、思ったことが自由にならない苛立たしさを感じもした。
たとえばこの修飾過多で軽薄な大輪の花弁を彼のちいさな掌のうちに完璧に納め、そうしてまた思うがままに握りつぶしてやることができたらどんなにか素敵だろう。本田は考える。いつもそんなことを、この男に相対するときには考えている。

よく磨かれた二組の紳士的な靴が踏み込むのは、整然と敷き詰められた幾何学模様の遊歩道だった。客分として迎え入れたフランシスに満開のむくげが咲いたのを見せてやろうと本田は思ったのだが、いつの間にかこの不可思議な、自分の敷地内にあるようにも思えない薔薇園に彼らは存在していたのだった。
気高そうな靴音が二揃えゆっくりと動きを止めていて、雲の一片も見えない晴天であるのに太陽の姿がなぜか見えない。沈んでしまったのかもしれないし、あるいは隠れてしまったのかもしれない。そればかりはあの、プライドばかり高いアーサーあたりに聞いてみなければ行く末も知れぬ。
湿度をあまり含まない、さらさらとした暑気がスーツの上から肌を刺すのに、絢爛たる薔薇は衰える色さえ見せないのがとても異様だ。白いの、桃色の、青色の、そしてダーク・レッドの本式の、花々は盛んに咲き誇ってはその隙間に1ピクセルの暗示をも含ませない。強いてそういう風にしているのか、とフランシスに続いて歩む本田はなんとなく思う。そして文脈なんぞ忘れていつしか話しだす。気高いばかりの靴音が、整然と並んだタイルを踏みつぶしてきつい音を幾度か立てた。本田のほうを悠々と向いたフランシスの網膜の、その妙なる色彩といったら!

「あなたは――」
「うん? 今何か言ったのは君か、日本」
「よく、名まえをご存じで」
作品名:認識は明日イーハトーブで 作家名:csk