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とおりゃんせ

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「さあ、それを押すのだよ」
彼の声に導かれるかのように、化石とも言えるくらい古い押しボタン式信号機のボタンを押す。固い感触が人さし指に伝わってくるが、スピーカーは静けさを保っていた。てっきり渡る前から鳴るものかと思っていたが違うらしい。まあ、音楽が鳴っても鳴らなくても信号が赤である限り前へ進むことはしないから何の問題もないだろう。僕も彼も規律を守ることには異論ないので(正確に言えば、彼が規律を守ろうとして守るのに対し、僕は車に轢かれるのが嫌だからという理由があったが)二人ともきっちり足を止めている。
夕方。太陽が斜めに傾き、縦に伸びるビルの向こう側へ沈む時間帯。学校が違う僕らが今こうして隣あっている理由はたったひとつ――偶然会ったから。無難すぎて盛り上がりから程遠い内容ではあったが、そもそも僕らの間に盛り上がる何かがある筈もないので文句をつける人間はいないに違いない。仮にいたとしても、僕にも彼にもそれを聞き入れる理由はないけれど。
「……それにしても、どうしてこんなところでオマエと会うのだろうな、黒子」
「どうしてでしょうね。でもそれはボクの台詞ですよ、緑間君。どちらかというとこの辺りはボクの縄張りであってキミのじゃないと思います」
「犬でもあるまいし、縄張りという言葉はどうかと思うのだよ」
「そうですか」
緑間君のいつも深い眉間の皺が更に寄せられるのを見て、常々僕らの間で合言葉のように交わされる相性が悪いという言葉を思い出す。こういった細かいところでもそれは容易に露見して、僕らはいつだって距離を詰めたことを後悔する。今日だって何事もなかったかのように挨拶だけを交わし、黙ってお互いの縄張りに帰ることも出来たのだ。だが僕らは目と目が合った瞬間磁石のようにふらふらと引き寄せられ、こんな風に小さくいがみ合いながら離れようとしない。ひどく不可解だ。僕にとっても、おそらく緑間君にとっても。
ブレーキを踏むことが頭にないようなスピードで通り過ぎていく車体が、徐々にゆっくりと道路を滑るようになっている。車用の信号機は青から赤に変わり、無数のタイヤの摩擦力をゼロにする。すぐ近くのスピーカーから音割れしたとおりゃんせが流れ始め、ぱらぱらと僕らと同じように停止を余儀なくされていた人が、白の線上をこともなげに歩いていく。
作品名:とおりゃんせ 作家名:ひら