とおりゃんせ
そう言うなり彼はむんずと僕の手首を掴んだ。悲しいかな、バスケットボールを片手で悠々と掴める程の手の大きさを持つ彼の掌に僕の手首がすっぽりと収められる。緑間君の指先は冷たかった。生来のものなのか、それとも緊張のせいでそうなっているのかは分からない。何しろ僕らは相性の悪さを理由にろくすっぽ触れあうことをしてこなかったのだから。そんな僕らに今更何かが起きるなんてある筈なかったが、しかし僕はその手を振り払わない。
「……緑間君」
「なんだ」
「いいえ、なんでも」
わざわざ僕の方からイニシアチブを与えてあげるような優しさなんて生憎持ち合わせていないのだ。