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泣くまで抱いててあげる

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ベッド脇の緩い照明だけを頼りにベッドへ近寄ると、マルコはぎゃあぎゃあ喚く子供を片手で抱いたままシーツを捲った。そして小さな身体をベッドに転がすと、自分もその横へ身体を滑り込ませる。
子供が驚きすぎて二の句が告げないのをいい事に、マルコは毛布に包まったままの身体を腕の中へ引き寄せた。
「なッ!なにしてんだよ、離せ!」
マルコは寸前よりも動揺を露にする子供の背を落ち着かせるようにぽんぽんと幾度も撫でた。
大丈夫だと囁く。子供がひくと背を引き攣らせた。
いくらか落ち着かせると、マルコは言い聞かせるように言った。
「大丈夫だよい、エース。俺達はお前の敵にはならねェ」
大丈夫だと繰り返しながら宥めるように震える背を抱いた。
毛布に顔を埋めて、くぐもった声音で子供がそんなことわかんねぇだろと呟く。
マルコはわかるよいと答えた。
「なァ、少しずつでいい。俺達を、オヤジを信用してくれねェかい」
お前を守らせてくれ。
そう言ったマルコの言葉に、いらえは返らなかった。
苦笑して、マルコはさらにその体温を抱き寄せた。あちこちに跳ねた癖毛が顎を擽り、目を細める。忘れていた疲れが緩やかに滲んで来た。
純粋なぬくもりは次第にマルコを眠りの淵へと導いた。子供特有の体温は、疲れた身体によく浸み込んだ。柔らかい癖毛を指ですくと胸に抱えた子供の身体から漸う力が抜けていく。
迷えばいいと思う。未知のものに巡り会いそして選択するとき、迷わない人間などいないのだ。分からずに癇癪を起こすなら幾らでも受け止めてやる。そうして迷って悩んだ先に、自分達家族を見つけてくれればそれはどれほど喜ばしいことか。白ひげはきっと笑って受け入れるだろう。自分と同じように、溢れんばかりの喜びを抱いて。
マルコは黙ったままの子供に少し笑っておやすみと呟くと、もはや抗い難い睡魔にその身を委ねた。
一度白ひげのその大きすぎる懐へ入り込んでしまえば、それに勝る鎧など何処にも存在しないということに、子供が早く気付けばいいと願いながら。



頭上からすやすやと寝息が聞こえ出すと、エースは毛布の隙間からそろりと片手を出し、すぐそこにある体温に手を伸ばしてみた。
温かい。
くしゃりと手が男のシャツを握り締める。エースがどんなに敵意を露にしてもどこ吹く風で飄々といなす男は、いとも容易くエースを懐に抱え込んでしまった。
冷え切って冷たくエースを見ていたように思えた海の色をした瞳は、今は瞼の奥に仕舞われて窺えない。
守らせてくれと言われた意味が、エースはよく分からなかった。だが今はその意味を考えるよりも、溢れかえるほどの質量が喉と胸を締め付ける感覚に戸惑った。
エースは熱くなった目を瞼で覆い隠すようにぎゅっと瞑ると、額を温かくて大きな胸に押し付けた。



作品名:泣くまで抱いててあげる 作家名:ao