臨也さん襲い受けのシズイザ
時々、自分の心が分からなくなる事がある。
たとえばそれは、俺の視界の先で突っ伏して眠る金髪を見ている時とか。
(よく寝るよねぇ)
すやすやと、寝息すら聞こえてくるんじゃないかというくらい安らかに眠る金髪は、先日の中間テストでも散々な成績だったというのに懲りる事を知らないらしい。教師の声を子守唄に、気持ち良さそうに眠っている。起きている時には、俺の顔を見るや否や「死ね」「殺す」「うぜぇ」など、実にレパートリーの少ない暴言を吐く事しか知らない凶暴さを考えると、この眠っている間の穏やかさを常にも配分すればいいのに、と思わなくもない(新羅いわく、俺以外には程良く配分されているらしいけど)
二年になって、初めてシズちゃんと同じクラスになった。
流石に授業中は喧嘩をしないという理性を持つシズちゃんによって、俺達の間には授業の間だけ限定の休戦条約が結ばれていた。いや、俺が遊びたくなったら破るけどね。でも、今はちょっとだけ面白いと思っている事があるんだ。だから、飽きるまでの間、俺はシズちゃんが無言のまま貫いている"休戦条約"に乗ってあげている。それだけの話だ。
「おや、授業は終わったのにまだ静雄は寝てるのかい?」
「ああ、そうみたいだね」
「ふぅん」
「…なにさ、その顔」
「いやぁ、あれだけ授業中熱心に静雄を見ておいて、よくそんなに何も気にしていないって顔が出来るなぁって感心していた痛っ…!ちょっ、臨也…!ナイフ刺さってる!って気付いてるんだろうけど…!!」
「余計な事を言うからだよ」
ナイフを退かさないまま、言い含めるように笑ってみせる。聡い新羅は、降参だと言わんばかりの態度で諸手を上げるが、だからといってこの溜飲が簡単に下がると思われては心外だ。
「……んだ?ノミ蟲の声がしやがる……」
「おや、お目覚めかい?丁度良かった、助けて静雄!」
台詞のわりには、一定以上の危機感を抱いていない新羅の声にシズちゃんが眠そうに瞼をこすった。とりあえず、刃物に過剰反応されても嫌だから、死角から突き付けるよう身体を動かす。
「ん?…あ、新羅眼鏡変えたか?」
「有難う!今気付いて貰わなくていい事に気付いてくれて有難う!ちなみに変えたの、4か月前だけどね!!」
「あー、そうか。…で、なんだっけ?ああ、メシか」
寝起きのシズちゃんは、いつもに増してマイペースだ。俺がちょっかい出さなければ、特に気にかけても来ないし、こちらを見ようとすらしない。
俺は、それが心地良いワケでは決してない。
無視をされるのは面白くないし、かといって喧嘩ばかりに明け暮れるのも体力の無駄だ。
シズちゃんをもっと有効に活用出来ないか、もしくは俺の邪魔ばかりするなら死んでくれないか。
俺のシズちゃんへの興味は、この二通りだけだったはずなんだけど。
「お昼はまたパンかい?」
「ああ」
「わぁ、5つも?その細い身体によく入るよねぇ」
「うっせぇ。俺の勝手だろ」
完全に俺を無視して進んでいく話しに、右手の刃物を少しだけ押し進めた。
「っ…!い、臨也もよかったら一緒にお昼食べない?」
いいね、新羅は聡いから好きだよ。
「おい、新羅」
「ごめん、ちょっと今危機的状況なんだ」
「?」
首を傾げるシズちゃんを嘲笑うかのように、じゃあそうしようかな。と告げれば。
実に嫌そうな顔をしたシズちゃんは、それでも"来るな"とは言わなかった。
最近の俺が、ちょっとだけ面白いと思っているのは、
シズちゃんが俺に向かって「死ね」「殺す」「うぜぇ」以外の言葉と、感情を向ける事。
基本的に俺が何も言わなければ、シズちゃんは俺にあからさまな敵意を向けてはこないから。
だから、ちょっと、少しだけ。借りてきた猫のように大人しくしてみるのが、俺のブーム。
「いや、全然大人しくないよね。早くそれ、仕舞ってよ」
「何言ってんだ、新羅?」
「いや、こっちの事だよ」
「ちょっと!なんで臨也が否定するんだい?!」
飽きるまでの間、俺はシズちゃんの"休戦条約"に乗ってあげている。
ただ、それだけの話。
たとえばそれは、俺の視界の先で突っ伏して眠る金髪を見ている時とか。
(よく寝るよねぇ)
すやすやと、寝息すら聞こえてくるんじゃないかというくらい安らかに眠る金髪は、先日の中間テストでも散々な成績だったというのに懲りる事を知らないらしい。教師の声を子守唄に、気持ち良さそうに眠っている。起きている時には、俺の顔を見るや否や「死ね」「殺す」「うぜぇ」など、実にレパートリーの少ない暴言を吐く事しか知らない凶暴さを考えると、この眠っている間の穏やかさを常にも配分すればいいのに、と思わなくもない(新羅いわく、俺以外には程良く配分されているらしいけど)
二年になって、初めてシズちゃんと同じクラスになった。
流石に授業中は喧嘩をしないという理性を持つシズちゃんによって、俺達の間には授業の間だけ限定の休戦条約が結ばれていた。いや、俺が遊びたくなったら破るけどね。でも、今はちょっとだけ面白いと思っている事があるんだ。だから、飽きるまでの間、俺はシズちゃんが無言のまま貫いている"休戦条約"に乗ってあげている。それだけの話だ。
「おや、授業は終わったのにまだ静雄は寝てるのかい?」
「ああ、そうみたいだね」
「ふぅん」
「…なにさ、その顔」
「いやぁ、あれだけ授業中熱心に静雄を見ておいて、よくそんなに何も気にしていないって顔が出来るなぁって感心していた痛っ…!ちょっ、臨也…!ナイフ刺さってる!って気付いてるんだろうけど…!!」
「余計な事を言うからだよ」
ナイフを退かさないまま、言い含めるように笑ってみせる。聡い新羅は、降参だと言わんばかりの態度で諸手を上げるが、だからといってこの溜飲が簡単に下がると思われては心外だ。
「……んだ?ノミ蟲の声がしやがる……」
「おや、お目覚めかい?丁度良かった、助けて静雄!」
台詞のわりには、一定以上の危機感を抱いていない新羅の声にシズちゃんが眠そうに瞼をこすった。とりあえず、刃物に過剰反応されても嫌だから、死角から突き付けるよう身体を動かす。
「ん?…あ、新羅眼鏡変えたか?」
「有難う!今気付いて貰わなくていい事に気付いてくれて有難う!ちなみに変えたの、4か月前だけどね!!」
「あー、そうか。…で、なんだっけ?ああ、メシか」
寝起きのシズちゃんは、いつもに増してマイペースだ。俺がちょっかい出さなければ、特に気にかけても来ないし、こちらを見ようとすらしない。
俺は、それが心地良いワケでは決してない。
無視をされるのは面白くないし、かといって喧嘩ばかりに明け暮れるのも体力の無駄だ。
シズちゃんをもっと有効に活用出来ないか、もしくは俺の邪魔ばかりするなら死んでくれないか。
俺のシズちゃんへの興味は、この二通りだけだったはずなんだけど。
「お昼はまたパンかい?」
「ああ」
「わぁ、5つも?その細い身体によく入るよねぇ」
「うっせぇ。俺の勝手だろ」
完全に俺を無視して進んでいく話しに、右手の刃物を少しだけ押し進めた。
「っ…!い、臨也もよかったら一緒にお昼食べない?」
いいね、新羅は聡いから好きだよ。
「おい、新羅」
「ごめん、ちょっと今危機的状況なんだ」
「?」
首を傾げるシズちゃんを嘲笑うかのように、じゃあそうしようかな。と告げれば。
実に嫌そうな顔をしたシズちゃんは、それでも"来るな"とは言わなかった。
最近の俺が、ちょっとだけ面白いと思っているのは、
シズちゃんが俺に向かって「死ね」「殺す」「うぜぇ」以外の言葉と、感情を向ける事。
基本的に俺が何も言わなければ、シズちゃんは俺にあからさまな敵意を向けてはこないから。
だから、ちょっと、少しだけ。借りてきた猫のように大人しくしてみるのが、俺のブーム。
「いや、全然大人しくないよね。早くそれ、仕舞ってよ」
「何言ってんだ、新羅?」
「いや、こっちの事だよ」
「ちょっと!なんで臨也が否定するんだい?!」
飽きるまでの間、俺はシズちゃんの"休戦条約"に乗ってあげている。
ただ、それだけの話。
作品名:臨也さん襲い受けのシズイザ 作家名:サキ