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ヤンデレシズちゃんと、臨也さん

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「好きだ」

微笑み、あるいは侮蔑の笑い
種類は違っても、その言葉への対処法は笑顔だったと俺は記憶している。

「好きだ」

ちなみに、俺の現状を述べるならば自宅マンションの近くを歩いていた所、背後から急に伸びてきた手によって路地裏に拉致られた。全くと言って容赦のない拳を、腹と右頬に一発ずつ食らい、衝撃を逃がせずビルの壁で頭を打って絶賛脳震盪中。
立てないし、話せない。笑うなんて、論外だ。

「好きだ」

俺にここまでのダメージを与えた男は、凶悪に力を奮っていた時となんら変わりの無い顔で繰り返した。
馬鹿じゃないの?俺にどうしろって言うのさ

俺は君の事が世界で一番嫌いだし、君だって同じだったハズだろう?
全く持って噛みあわない俺達の、唯一の共通点だったじゃないか。

「臨也、好きだ」

四回目。
この男から、と限定しないならば数えきれない程聞いた言葉。けれど、ここまで感情に酔わずに告げられたのは初めてだ。

「―――っ、」

ダメだ、当分立てそうにない。
じわじわと距離を詰めてくる男は、こちらの危機感を煽る事しかしないと言うのに。足が、手が、口が、動かない。
油断すれば、震えてしまいそうな威圧感の中、それだけはプライドが許さなかったので堅く唇を噛みしめた。そのまま、笑みの形に歪めてみる。笑顔に、なっていればいいのだけれど。

「好きだ」

それしか言葉を知らないのか、この馬鹿は。
自分が出来る最悪の形で歪んだ瞳に、男が映る。

血で染まった手のひらが、ゆっくりと俺の頬を包みこむ。

「……好きだ」

「――――おれも。」

ようやく動いた唇は、全力で保身に動いた。
この状態で彼を刺激するのは良くない。そんな予感が頭に響き続けている。

「よかった」

男が笑う。
何故だろう、胸騒ぎが先程よりもずっと、ずっと大きくなる。

「臨也、好きだ。お前が、一番、好きなんだ」

噛み砕くように、小さい子供に言って聞かせるように。

「うん。俺も、シズちゃんが好きだよ」

男が無邪気に顔を綻ばせた。
ゆっくりと頬を撫でていた手が位置を変え――

「…しず…ちゃん?」

首に回った手のひら。この男の力ならば、俺の首など片手で捻れる事を知っている。
だからこそ、冷たい汗が背筋をつたう。




「いざやぁ。俺がお前の嘘に気付かないと思ったか?」


笑い続ける男の目は、暗く淀んで何も見えない。
何も――見えない。