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来神時代、4人でこっそり酒盛りする話

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臨也がドアを開けた時、僕と門田くんは恐らく同じ事を考えたと思うね。
あ。帰って来たんだって。

「…何?その予想外って顔」

そんな表情を読み取るのは容易かったのだろう。臨也は無駄に整った顔を、わざとらしい笑みに歪めてみせた。
あれだね、感情が顔に出過ぎる人間は損をするけれど、ここまで完璧に表情と感情を制御する人間は逆に憎らしく思えてくるから不思議なものだ。いや、良い意味でだよ?あと、どちらかと言うと臨也は人間じゃないような気もしてくる。悪魔とハーフでしたって言われても、僕は何ら驚かないだろうね。

「なんだか随分な事を思われてるみたいだなぁ。特に、新羅」

おや、バレた。ほらね、やっぱりハーフだ。

「あはは、だってさぁ?ねぇ、門田くん」

「ああ、出て行ってから、まだ30分も経ってないぞ」

門田くんの言葉に補足するなら、その前には"静雄と同じ部屋で寝るなんて耐えられない"という捨て台詞が追加されるはずだ。
いやいや、全くもって仲が悪いよね、君達は。

「うーん、そのつもりだったんだけどさぁ。ちょっと良い事思いついちゃってね。だって、修学旅行だもんねぇ。思い出作っとかなきゃ」

そう、臨也の言う通り、僕達は現在修学旅行中だったりする。
臨也と静雄が同じ班だなんて、ちょっと考えなくてもやめておいた方がいいと断言出来る組み合わせの班に、ストッパー役として配置されたのが、僕と門田くんだ。全く、教師の責任転嫁も甚だしいね。自分達の手に負えないものを、生徒に丸投げしてどうするんだか。けれど、その代わりというべきか他の生徒よりも広めの部屋が宛がわれていたりと、細部でちょっとした役得はあるみたいだ(危険と釣りあっているとはとても思えないけれど)

ガサガサと持っている袋を揺する臨也に、門田くんが眉をしかめる。
きっと中身が見えたんだろうね。僕にだって見えたんだから、門田くんが見えないわけがない。

「…嫌な予感しかしないのは俺だけか」

「どうしよう。僕ちょっと面白いとか思ってきたかも」

「岸谷…」

だってさぁ、面白そうだよね。
たしかにこのホテルの近くにコンビニがあったよ。それは特筆するべき事でもないだろう。だけど、修学旅行生が監視の目を易々と抜け出して、ここまで堂々とアルコールを購入してくるって事は中々ないんじゃないかと思うんだ。静雄が酔ったら手がつけられない惨事が起こりそうだけど。まぁ、彼は今風呂に入っていてこの場にはいないし、さ。

「じゃーん!ほら、好きなの飲んでいいよ?」

缶ビールに、缶チューハイ。
瓶入りのライムウオッカに、ウィスキー。それから、焼酎、日本酒。何でもある。

「…あのな、俺達は一応修学旅行に来てるんだ。バレたら停学じゃ済まないぞ」

「だいじょーぶ、そこらへんの先生に見られても俺がきっちり始末しとくし。ほらほら、ドタチンはビール?それともウィスキー?何でもあるよ~」

「ハァ…。まぁ、ここまできたら乗らない方が面白くないな」

「珍しいね、門田くんはそう言うの乗らないかと思ってたよ」

「俺より乗らないと思ってたお前がノリノリなんだから、俺一人で抵抗しても時間のムダだろ」

「そうそう。ドタチン格好いい~!」

ハイテンションで場を盛り上げる臨也の手元には、既に空になったビールが転がっている。

「ちょっと、ペース早過ぎるんじゃないのかい?」

「いいのいいの。ほら、新羅は何にする?」

適当な缶を受け取りながら、僕は自分の好奇心が膨らんでいくのを自覚していた。
別に、この特殊な青春じみたシチュエーションに酔っているわけではない。なんとなく、面白い事になるんじゃないかという漠然とした予感。そんな、何かを感じ取っただけだった。









結論から言って、予感は的中した。
あれから30分、臨也は門田くんに纏わりつくオブジェ的な何かに成り果てていた。

…てゆーか、自分から飲もうって言ってきたんだからもっと強いと思ってたよ僕は。ああ。でも。

「ドッタチーン!ねぇねぇ、ドタチン!ドタチンってばぁ~~」

この臨也は、中々面白い。うん、見れてよかった。門田くんには、お気の毒だけど。
門田くんの膝の上にちょこんと座りこんで、まるで猫のように擦り寄って、ほっぺをつついて何がツボにはまったのか分からないけど爆笑している臨也は常ではまず見られないだろう。よかった。巻き込まれたの、僕じゃなくって。

「………岸谷」

「ごめん、助けてあげたいけど無理かな」

「えー?なんで?なんでドタチン新羅呼ぶの?ねぇねぇねぇ、なっんで~?」

「うぜぇ」

あれ?僕の心誰か読んだ?!
多分、門田くんも同じ事を思ったらしい。声の元を見ると、そこには部屋風呂からあがり立ての、髪を乱暴に拭う静雄が居た。

「なんで、ノミ蟲が帰ってきてんだ?しかもスゲーうぜぇし。門田嫌がってるじゃねぇか」

「えっえー?ドタチン、嫌がってないよね?ねっ?」

「……何度か言ってたが、わりと迷惑だ」

その台詞、僕は確実に二桁は聞いたけど臨也にとっては初耳だったらしい。
心底驚いた様子で目を見開いた臨也は、相変わらず門田くんの膝の上で悲痛な表情を浮かべてみせた。

「えーー!!ドタチン酷い!俺の事は遊びだったの?!」

「すこぶる外聞が悪いな」

「つーか、ノミ蟲の声がうぜぇ。マジでうぜぇ。巣に帰れ」

まだ乾ききっていない髪を乾かす事を放置した静雄は、備え付けの冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターを開けながら鋭い瞳で臨也を睨みつける。しかし、今の臨也にとっては大したダメージにならなかったらしく、にこりと笑いながら立ち上がり、助走をつけて静雄の背中に飛びつくという――この部屋の崩壊リスクが、ぐんと高まる事をやってのけた。

「シズちゃん、お風呂あがりだねぇ。ん、石鹸の匂いがする。あはっ、シズちゃんのくせに生意気ぃ~」

「でっ…髪引っ張んなバカ蟲っ…!つーか、風呂入ったら誰でも石鹸の匂いだろうが!」

「えー、そっかなぁ。こんなにいい匂いするかなぁ。てゆうか、髪まだ濡れてるじゃん。ほらほら、俺が拭いてあげるからシズちゃん座って?」

「…何でテメェに拭かれなきゃいけねぇんだ」

「えー、シズちゃんそーゆー事言っちゃうの?よくないよ。人の親切は素直に貰っておかないとねぇ~?」

「テメェは人じゃねぇ。蟲だ」

「あはははっ、シズちゃん最悪ー!てか、俺の気分も最悪ー!あはっ、なんか本気で吐きそうなんだけど~」

「吐いたら殺す。マジで殺す」

それでも静雄の背から離れようとしない臨也は、ケタケタと笑いながら静雄の髪に顔を埋めている。
そんな時、僕はある事に気付いてしまう。

「……………あ、」

「どうした?」

「うーん…気の所為かもしれないから、いいや」

「?」

静雄の首に腕を回し、ふにゃふにゃと笑いながらへばりつく臨也。

その目が、一瞬欠片も我を失っていないように見えたなんて―――

「たぶん、見間違いだよね」

「…?」





「シズちゃんのしーは、死ねばいいのしー!」

「テメェが死ね」

「シズちゃんのずーは、ずっと童貞のずー!」

「いや、マジで死ね」

「シズちゃんのちーは、