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レイ・イチ ~けったいなお人は好きですか~

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病気



イチがダウンした。

最近は不完全な紋章のせいもあって健康第一のイチはよく倒れるようになっていたが、今回は純粋に風邪のようである。
それでもナナミ曰く昔は風邪すら引かなかったと言っているので、やはり紋章のせいで抵抗力も弱っているのかもしれない。

「イッちゃんしんどい?」

レイが冷水に浸し、絞ったタオルを額にあててやる。

先程まで自室にシュウもいた。
普段からあんな寒そうな格好をしているからです、とかきちんと布団を被らずにお腹を出して寝るからです、などとお母さんのような文句の後、面会謝絶にしましたからゆっくり休んでなさいと言って出て行った。

それまではひっきりなしに誰かが訪れてイチも相手をするので休む暇なしだった。
気をきかせて仕方なしにレイだけを残して後は追い出したシュウの言った通り、その後は誰も入ってこなかった。
やはり鬼軍師もイチには甘いね、とレイは思った。

「んー、大丈夫・・・。」

そうは言っても風邪のだるさと熱のせいでボンヤリとしている。

・・・でも、熱にうかされたイチも色っぽいとレイは不謹慎な事を考えていた。

タオルをあてるし、具合も良くないだろうと、いつもの金輪ははずしてある。だが耳にはピアスがつけてあった。

琥珀のピアス。
クリスマスのとき、恋人や家族等特別親しい人にもプレゼントをするんだよと聞いていたイチは、レイにピアスを用意していた。黒曜石のそれはとても美しく、見つけた時レイに凄く似合うだろうなと思った品だった。
レイはもともとピアス穴があいていて、つけたりはずしたりしているようであった。

当日拉致されたイチは当初怒っていたが、イチの為にと準備された飾りつけや料理には内心とても感動していた。
レイの自室でイチは真っ赤になりながら、似合うと思ってと、綺麗に包んでもらったピアスをレイに渡した。

「イッちゃん・・・。ありがとう。レイすっごい嬉しい。」

思いがけなかったようであり、純粋にびっくりして、そして物凄く喜んでレイはそれを受け取り、中を開けるとニッコリしてそれを自分の耳につけた。
イチはそれを見て、やっぱりとてもよく似合うと思った。

「レイもね、イッちゃんに。」

そう言うとレイもイチに小さなシンプルな箱を渡した。
ほんとに?とドキドキしながら開けると中に同じようにピアスが入っていた。

「偶然だねえ。レイもね、イッちゃんに凄く似合うと思ったんだよねん。」

それはとても美しい琥珀だった。
綺麗だ・・・と手にとった後、気付いてイチが言った。

「凄く気に入ったけどさ、俺、ピアスの穴なんか開けてねえぞ?」

戦闘に使う装飾品にピアスもある為、男でも開けている人は多くいたが、イチは開けていなかった。

「うふ。イッちゃんは穴も含めすべてレイのものだからね、もちろん最初に穴を開けるのも、レイが、ねん。」

レイの瞳が妖しく光る。

「え・・・?いや、何さりげにとんでもねえ事言ってんだよバカっ。ていうか、マジですか!?」

イチは耳を押さえながら青くなった。ニヤリとレイの手が伸びる・・・。


「・・・タオル・・・サンキュー・・・。」

熱でこもったような声でイチが言った。
レイはニッコリとした後、そっとピアスをつけた耳にキスをする。

「・・・何、してんだ、よ・・・くそバカ・・・。」
「んー、イッちゃんってばん。弱ってても口悪いんだからん。」

苦笑した後、レイは呟いた。

「・・・ピアスも、イチも・・・どっちも綺麗だから・・・。」
「・・・さっ寒い事・・・言ってんじゃ、ねえっ・・・。」

そう言いながらもほんのり上気した頬を更に赤くしている。

ほんとに可愛い僕のイチ。
ただの風邪でもここまで僕の気分が落ち込んでしまうのは、やはり紋章のせいだろうね。

・・・連れていかせないよ。
どこにも、誰にも。
奇跡が起きるというならそれでもいいけど、基本的には僕は奇跡なんてものは信じていない。
少なくとも僕には奇跡なんてものは存在しなかった。
イチにだって起きるかどうかなんて分からない。
そんな不明瞭なものに託せやしない。

最悪、この手を汚してでも・・・いや、汚すことくらい他愛無い。
そうだね・・・イチに嫌われようが最悪の場合、僕は・・・。

「・・・ど、うしたん、だ・・・?」

どこか一点を見つめて黙っていたレイを不審に思い、イチが聞いた。
レイがそんな顔をする事は滅多にない。

「ん?ああ、何でもないよん。今晩はイッちゃんといっしょにおかゆでも食べようかなとか考えてただけ。」

レイがイチを見てニッコリ笑う。
そんなレイをイチは黙って見る。

多分俺の紋章の事を考えていたに違いない、そうイチは思った。
前にも何度かこんな顔を見ている。
俺が倒れた時だ。
いつものヘラヘラしたレイとは違い、一切の表情が消えた顔。

俺の知らないレイの闇の部分。
出来ればレイにそんなものを抱えて欲しくなかった。
でも少なくとも前や今そんな表情をさせてしまっているのは自分のせいだ。
この不完全な紋章・・・。

・・・ああ、俺は・・・いったいどうしたら・・・。
いや、だが結局俺は自分のやり方を変える訳にはいかない。
例えそれが誰かやレイを悲しませる事になってしまったとしても・・・。

「・・・イッちゃんこそ、風邪でしんどいんだから、こんな時は何も考えずに休んでねん。・・・ああそうだ、風邪って誰かに移すと早く治るっていうよねん。」
「あ?ああ・・・そんな事聞いたような気もする、けど・・・」
「だから・・・ね?・・・レイに移して・・・?」

すっとレイは顔を近づけてイチに口づけをした。そのまま優しく続ける。それから離すとそっとイチの瞼にもキスをする。

「・・・ば、ばかやろ・・・。」
「うふ、ばかじゃないもーん。さ、もう邪魔しないから、イッちゃんはねんねしてねん。」

レイは掛布団をなおしてぽんぽんと軽く叩いた。

暖炉から燃えてはじけた木の音がする。
加湿する為に火にかけているやかんからシュンシュンと音がする。

静かなせつないひと時。
なぜか泣きそうな気持ちになりながらも、イチは眠りに落ちていく。

・・・ただ・・・もちろん命を救えるなら嫌われても厭わないがそれでも・・・イチが本当に望む事を・・・?いや・・・でも・・・。

・・・ただ・・・進むべき道を迷わず前を見て進むだけなのだがそれでも・・・レイをさらなる闇に叩きつけても・・・?ああ・・・でも・・・。

パチッ・・・薪がまたはじけた。