レイ・イチ ~けったいなお人は好きですか~
決意
ナナミが死んだ。
ついこの間一緒に年越しそば食べたばかりなのに。
これからも一緒にいようねって、そう約束したばかりなのに。
チョコレートの味がまだ残ってそうなくらいこの間に、チョコをくれたばかりなのに。
なぜあの時庇うナナミを止められなかった?
なぜあの時身をていしてナナミを庇えなかった?
なぜあの時紋章は役に立たなかった?
なぜ、なぜ、なぜ・・・・・。
後悔ばかりが押し寄せる。後悔で体が押しつぶされそうになる。
ああ、なぜ自分が無事で彼女が死んだ!?
”すみません、力不足です・・・”ホウアンの声が音として耳に入る。
チカラブソク・・・スミマセン・・・チカラ・・・
死んだ?
ナナミが?
そこにナナミはいるはずなのに、もう、いない?
ただ眠っているようにしか見えない。
今にもニコッと笑って”だまされたー”とか言って起き上がりそうじゃないか。
だのにもうナナミは、いない・・・。
笑ってくれない。見てくれない。触れてくれない。抱きしめてくれない。
自分の中ではナナミであふれそうなのに・・・。でもそれはもう頭と心の中だけ。見ることも聞くことも触れることも何も出来ない。
・・・これが・・・死ぬということ。これが・・・殺し、殺されるということ。
そうだ・・・自分だって沢山殺してきた。
味方の兵だって幾人も殺されてきた。
その誰もがナナミだったはずだ。誰かのナナミだったはずだ。
・・・ごめんね・・・ナナミ?今でも胸が押しつぶされそうに苦しく悲しいけど、俺は今は泣けない。
だってナナミのような人達を作ってきた。
ナナミを亡くして死にそうに悲しい思いをしたような人達をそれ以上に作ってきた。
だからこそもう止められないよ。
今止まれば、そんな人達は何のために犠牲になったのか意味を無くしてしまう。
勿論まだ戦いは終わっていない以上、さらなる犠牲者が出る。
でも、ごめんね?ナナミ。ごめんね?みんな。
それでも俺は止まらない。
イチの大切な家族が死んだ。
ついこの間仲良く一緒に年を越したというのに。
2人でイチを取り合ってふざけて遊んでいたというのに。
自分にもあの個性的なチョコをくれたばかりだというのに。
ただあの時は先に進んだ2人に嫌な予感がした。
ただあの時はこの2人なら大丈夫だろうと自分に言い聞かせた。
ただ誰かが倒れたと聞いた時生きた心地がしなかった。
ただ、ただ、ただ・・・・・。
安堵ばかりが押し寄せる。安堵で体が崩れ落ちそうになる。
ああ、ただ彼が無事で良かった、と・・・。
色々な声が耳に届く。
ナナミガシンダ・・・カワイソウ・・・イチガンバレ・・・
死んだ。
ナナミが。
最期は穏やかに逝ったのか、なぜか眠っているようにしか見えない。
今にも”うそだよーっ”と言って起き上がりそうだ。
だがナナミはもう、いない。どんなに周りが悲しもうが、どんなにイチが辛かろうが、見詰め合う事も話し合う事も触れ合う事も何も出来ない。
・・・これが・・・死ぬということ。これが・・・残し、残されるということ。
そう・・・。いずれ僕が経験していく想い。
知っている人がすべて存在しなくなるという現実。イチだって・・・?
・・・ごめんね・・・ナナミ?君が亡くなったのは確かに苦しく悲しいけど、僕は泣けない。
だってイチが生きていたから。
今までもこれからも誰が逝こうがイチが生きている、それだけで安堵し感謝してしまうから。
だからこそもう止められない。
今止まれば、そんな想いも消えてしまう。
勿論最後の戦いが終わる事を望んでいる。最後の犠牲者を欲しているから。
だから、ごめんね?ナナミ。ごめんね?イチ。
だからこそ僕は止めない。
作品名:レイ・イチ ~けったいなお人は好きですか~ 作家名:かなみ