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レイ・イチ ~けったいなお人は好きですか~

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これも一つの出会い



イチはあいた口がふさがらなかった。

イチ。
若干16歳にして、都市同盟での軍主を務め上げている。
見た目は明るい茶色の髪、こげ茶色の大きな目をした小柄ではあるが、程よく日焼けした元気一杯の少年である。
少年らしくやんちゃなところもあるが、仕事に関しては至って真面目で書類作成から戦争まで、軍師に助けてもらいながらもきちんとこなしていた。

そんなイチがある日、少し暇が出来たところで、腐れ縁2人と風使いとともにふらりとやってきた鄙びた村で、けったいな人物と出会ってしまった。


イチからすれば、”けったい”という表現しか思いつかない。
見た目は黒い艶やかな髪、惑わされそうな紅い目、透き通るような白い肌、身長は普通くらいだがすらりとのびた手足・・・とここまでいうとまるで美女の容姿を語っているようだが、その人物は紛れも無く少年、男である。
部分を語れば妖艶な美女のようだが、全体を見ればきちんと端整な顔立ちの男だと分かる。

もちろん容姿がけったいな訳ではない。
イチからすれば悔しいくらいに端整な顔と均等のとれたすらりとした体躯である。
そうではなく、要は中身が、なのである。

最初は何か揉め事のようで、気になって近寄ってみた。様子を伺っていると、どうやら数人の男が1人の少年に何か言っているようであった。

「てめえ、飄々としやがって、俺の女に手え出しただろうがっ。」
「えー?知らないよん、あんたの女あ?ああ、そういえば嫌な奴に付きまとわれているって言ってた子がいたねん。手ー出すなんて。あっちから誘ってきたのにい。退屈だったから付き合ってあげただけだよー。その後相手しなかったらあんたに戻ったんだねん。やだな、コウモリみたいな子だよね、その子。」
「んだとこのガキがっ。」
「ガキ、ね・・・?やだん、そのガキ相手に熱くなってんのはだあれえ?」

いきなり殴りかかろうとした男達をするりするりと避けながらニコニコとからかうようにその少年は言った。

「くっそお、んだこのガキ。全然あたらねえ。気持ち悪い喋り方しやがって・・・くそっ、なめんなよっ。」

男の1人が背中にもっていた棍棒を持ったのを機に、残りの男共も一斉に棍棒を手にした。
さすがに危ないと思ったイチが駆け寄ろうとしたが、うらあっという掛け声とともに一斉に殴りかかろうとした男共が、次の瞬間には逆に一斉にぶちのめされていた。

「大の大人がくだらねえ女1人の事でくだらねえ事やってんじゃねえよ・・・。・・・あーあ、くっだらない。」

イチですら目にとまらなかった。
その上一瞬で大立ち回りをした筈の少年は息1つ上がるでもなく、ぼそっと先程とは一変した言葉使いで呟いて歩き出した。イチ達の方に近づいてくる。
そしてイチ達に気付いた。
ん?と首を傾げている。

「レイ?レイじゃねえかっ。久しぶりだなっ?」

ビクトールとフリックが駆け寄った。え?知り合い?イチの横でルックがぼそりと呟いた。

「・・・レイ・マクドール。トランの英雄。3年前に僕らはあいつとともに戦った。」

トランの英雄・・・。え・・・あの少年が・・・?
イチも話だけは聞いたことがあった。解放戦争の英雄。
びっくりして見ていると、その英雄が最高の笑顔でビクトールとフリックを片方ずつの手で締め上げる。

「ほんっと久しぶりー。ていうか死んだかもって思ってたけどお?親しい人が次々死んでく状況だった僕に対して、よくも生きてる事連絡もせずに平気でいられたよねん。いい仲間を持って幸せだよねえ僕はー。」
「ぐえっ・・・わ、悪かった・・・」
「す、すまん・・・ぐ・・・ぐるし・・・」

・・・そういえばこの腐れ縁2人は昔の仲間に誰一人無事だって連絡してなかったんだっけ・・・。
唖然とその光景を見つめたままイチは思った。

それにしても凄い力だ。フリックはともかく、あの熊のようなビクトールまでも片手で締め上げている。・・・2人とも足、浮いてるよな・・・?

「そのくらいにしときなよ。」

見かねたルックが声を掛けた。

「んー?やあルックん。久しぶりー。まあ、そうだねー、いいよ、この辺にしといたげるん。」

笑顔のままパッと手を放したとたん2人はどさっとしりもちをつき、ふらふらと立ち上がりながら咳き込んだ。

「んでー?みんなで何やってんのお?・・・んでそこの子は?」

片手で締め上げていたとは思えない様子で、さも可愛らしく小首を傾げて彼は言った。

そこでビクトールが、今都市同盟で戦っていること、この少年がそこの軍主をしているイチという子だと説明した。

「へえん。そっかー、君が軍主してるんだー。」
「えーと、どうも、初めまして。イチといいます。」

イチはそう言って握手をしようと手を差し出した。
当然手を握り返されるものと思っていたら、スッとレイが近づいてきてイチの頬にチュッと軽くキスをしてニッコリとして言った。

「あは、僕はレイ。よろしくねん。」

一瞬何をされたか把握出来なかった。
腐れ縁2人は苦笑い、ルックは、あーあというような顔をしている。

「なっ、なっ・・・」
「な?」

口をぱくぱくさせているイチに、レイは首を傾げて聞く。

「・・・っ何しやがんだってめえっっー。」

そう叫ぶとイチはトンファーをさっと抜くと素早い攻撃をしかけた。

やった、と思った。

が、それは残像だった。
それよりも素早く避けて相変わらずニコニコしているレイに純粋に驚いた。自分の攻撃がこうも簡単にそれも余裕を持って避けられるとは・・・。

「いやん、乱暴ねん。ちょっとした挨拶だよ、あ・い・さ・つっ。」
「あ、挨拶だあっ!?ふざけんなっ。おっ俺にっキッキスッ、キスしときながら挨拶ってなんだよっ。んヤロッ。」

どう攻撃してもスルリと避けられる。

「っくそっ、何で当たんねえんだっ!?」

そうしている内にいつの間にか、無手だと思っていたレイが棍を構えていた。

「怒らない怒らない。当たらないけど中々のもんだようん。レイ驚いちゃった。でもお、きりがないし、ちょっとゴメンねん。」

え、と思った瞬間スッとレイが動いたかと思うと気付けばイチのトンファーは弾き飛ばされていた。

「はい、終了ー。」

そして棍の先をイチの喉元に突きつけていた。

「う・・・」

イチは悔しげに降参、と手を上げた。

「あは、潔いねん。降参ってことは、もう怒らない?」
「・・・怒らない。・・・って何なのこの人!?ホントにトランの英雄!?確かにありえないくらい強いけどさあっ。妙な喋り方といい、妙な事しでかしてくる事といい・・・えっと、お、おかまさん!?」

思わずビクトールとフリックが噴出す。ルックまでもが口元がピクリと動いていた。

「えー何でそんな事言うのー?レイ悲しいなー?おかまさんじゃないようん。ちゃんと女相手にやる事やってたもん。」

そういえばさっきも人の女に手を出したとか何かで揉めていたんだっけ。イチが思い出しているとレイが指を口にあて首を傾けながら言った。

「でもー。イッちゃんなら抱けるかなん。」

・・・え・・・?
今、何と・・・?

よほど怪訝な顔をしていたのだろう、聞こえなかったのん?とのん気にレイが言った。