二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

吸血鬼の涙(上)

INDEX|1ページ/8ページ|

次のページ
 
たとえ貴方が誰を想っていようと、オレは貴方を想い続けます。許される限り、貴方のおそばに居ます。



「行ってらっしゃいませ、10代目」
 古びた洋館の玄関前。銀髪の少年が、自分より少しだけ背の低い茶髪の少年に頭を下げる。「10代目」と呼ばれた少年は銀髪の青年を振り返る事無く、だが手だけは軽く振って歩き出した。銀髪の少年、獄寺隼人は、「10代目」に仕える者。茶髪の少年、「10代目」こと沢田綱吉は、吸血鬼の一族の次期10代目当主、だった。獄寺隼人は吸血鬼の一族の血は引いてはいない。個人的な理由で、沢田綱吉に仕えている。隼人は綱吉に恩があるのだ。綱吉は覚えていないようだが、幼い時に出会ったその日から。隼人の心も体も、既に綱吉のものだった。綱吉はそれを望んではいないだろうけれど……。

 隼人は綱吉の姿が完全に見えなくなるまで見送ることを日課としている。横道に曲がる際に見えた彼の表情は翳りを帯びていた気がして、隼人は綱吉を追うように駆け出した。だが、曲がり角で飛び込んできた景色に足が止まる。そして今度はゆっくりと足音を立てないように、本来自分がいる場所、古びた洋館へと引き返した。

 隼人が見た綱吉はもう、翳りのある表情はしていなかった。彼の隣には柔らかい雰囲気を持つ少女の姿。彼女が綱吉の想い人だと言う事を、隼人は知っている。だから二人を邪魔する事なんてしない。出来るはずない。それにあの少女なら綱吉を笑顔にしてくれる。間もなく訪れる筈の綱吉にとっての決断のとき。綱吉はおそらく彼女に想いを告げ、きっと受け入れられるだろう。それは綱吉にとってとても幸せなことで。
 綱吉の幸せは自分の幸せ。胸の奥から湧き上がる痛みを無理やり押さえつけながら、そう言い聞かせ。隼人は自らの仕事を続ける為に、部屋の中へと戻って行った。



 綱吉の翳りの理由を、隼人は知っている。だが知っているだけで、自分は彼の力にはなれない。だって自分は彼の想い人ではないのだから。
 綱吉はまだ、正式な吸血鬼ではない。彼らの一族は、16歳で成人する。成人するまでは普通に人間として暮らす事が許されているが、成人すると同時に闇の世界で暮らすようになり、その際に今までの生活は捨てる事になる。ただその時に、ただ一人だけ。自分の傍に居る者を連れて行くことが許されるのだ。もっとも綱吉が吸血鬼である事実を相手が受け入れられる事が出来たら、なのだが。更に受け入れた相手は綱吉同様に今までの世界の家族や友人達全てを捨てることになる。ここ最近、綱吉の表情に翳りがあるのは、多分その事を考えているからだ。

 大丈夫です、10代目。貴方の想いは届く。貴方が憂う事など何も、無い。

 綱吉は気付いていないようだが、ずっと彼を見守ってきた隼人には。淡くだが確かに京子から綱吉への想いが見て取れて。
 だから綱吉の憂鬱は杞憂に終わると思っていた。


 綱吉が京子と共に闇の世界に去ってしまったら、自分の存在は消滅してしまうけれど。
 それを彼に伝える気などない。
 優しい綱吉はそれを知ったら、本当の気持ちを曲げても自分を選んでしまうだろうから。

「じゅうだいめのしあわせがおれのしあわせ」
 今度は声に出して、確認する。
 やはり胸が痛んだけれど、この気持ちは嘘じゃない。
 誰よりも綱吉の幸せを願っている……。




「昨日はシチューだったから、今日は何にするかな」
 まだ朝だが、手際良く料理が作れない隼人は早くも夕飯の事を考える。料理は得意ではないが、昔に比べたらだいぶマシになっているハズだ。
 綱吉と隼人が一緒に暮らし始めたのは、綱吉が中学に入学した時期。その頃の隼人は料理など全く出来なくて、それ所か皿を割るばかりで綱を呆れさせて。だからその頃は隼人とは別にメイドが1人、館で暮らしていた。
 全ては無理だけどせめて館内で綱吉に関する事は全て自分が仕切りかった隼人は、それが嫌で必死に料理を覚えた。それに本家から派遣されてくるメイドは若くて美しい女性ばかりで、彼女達に綱吉が興味を惹かれるのではないかと思い、それも嫌だった。何故美人ばかりが代わる代わる送られてくるのか、その理由を隼人はある日、知る。






「獄寺君、今日こっちで寝て良いかな」
「それは構いませんが」
「あ、したい訳じゃないんだ。普通に寝るだけ」
 綱吉達の一族は、無闇に闇の血統を増やす事を嫌い、普段は吸血行為を禁忌としている。だが当然、血を吸いたいという衝動はある。だから最低限の吸血行為以外は、それを別の行為=綱吉の場合は性行為だ、に置き換えて衝動をやり過ごしている。
 綱吉はその性行為の相手に隼人を選び、隼人もそれを望んだ。隼人は綱吉が好きだ。だから気持ちが伴わない行為でも、道具としか思われてなくても、綱吉が自分を求めてくれるだけで嬉しかった。

「?」
 綱吉が行為を求める時以外に、夜隼人の部屋を訪れる事など今まで無かった。
「オレのベッド、あのメイドが寝てるんだよね。食事以外は獄寺君が全部やってくれるから、食事の用意終わったら帰って良いって言ってるのにさ」
 綱吉の言葉に、隼人はメイド達がただの食事作りの要員ではない事を悟った。綱吉のベッドに彼女が居るのはわざとだ。綱吉の相手として送られて来たのに全く手を出して貰えず焦ったのだろう。
 だが綱吉の口調から察するに彼はその事気付いていないようだ。

 気づいていないなら、わざわざ指摘して意識させる必要もないと思い、その日初めて行為なしで綱吉と寄り添って眠った。


「え、何の話?てかこんな朝早くかけてくるなよ。は?隣に寝てるのは獄寺君だよ。何でメイドの名前なんて出てくるのさ」
 早朝、微睡んでいた隼人の耳に綱吉と誰かの会話が聞こえてくる。主より遅くおきるなんて、と一瞬焦ったが壁掛け時計で確認するに、どうも普段の起床時間より随分早い。
 綱吉の遠慮ない言葉遣いからすると、相手は多分彼の父親だろう。父親だが、彼は吸血鬼ではなく、普通の人間として妻と二人で人間界で暮らしている。彼の先祖は力のある吸血鬼だったらしく、綱吉は先祖帰りで強く吸血鬼の血が出てしまった子供。それももっとも強大な力を持つ吸血鬼として恐れられていた初代に一番似た力を持っているらしい。それが原因かは分からないが、かなり幼い頃から両親とは離れて暮らしていて。綱吉がそれでは寂しいのではないかと思った隼人が、それについて尋ねた事があったが。
 彼は詳細は語らずただ、「オレが離れた方が良い、って思ったんだ」と少し哀しげに笑うだけだった。
 
「はぁ?そっちは間に合ってるからもうこんな事させないでよ!寝床取られて迷惑っ。後獄寺君もだいぶ料理上達して来てるから、もうメイド自体要らないよ。獄寺君だけで充分家の事はやってけるし」
作品名:吸血鬼の涙(上) 作家名:HAYAO