誰が為に咲く花
・・・あの人は僕を強く、強く抱きしめて、さようならと言いました。そして僕を残して部屋を去り、それから一年も過ぎようとしていますが、何の音沙汰もなく、風の噂も耳に入りません。僕は呪縛のように最後の言葉にとらわれて、こうして、若い男が死んだとなれば見に行かずにはいられないのです。その背に、赤い花が咲いていやしないかと、確かめずにはいられなくなってしまったのです。
ええ、分かっています。あなたが尋ねたいのはそういうことでしょう。
確かに先ほど見つかった死体、あの男の背には、赤い花がありました。大輪の、花。
あなたが聞きたいのは、あの花が僕の手によるものか、否か、そういうことでしょう。あの悪党が死んだのか、それともそれ以外の誰かなのか、確かにそれは大事なことかもしれません。
けれども僕は、そう尋ねられたなら、いいえと答えるでしょう。何の参考にもなりはしません。だってあの人の生死を知るのは僕だけなのです。ほかならぬあの人が僕のために用意した特別というのは、そういうことです。あれがあの人でないのなら、僕は正直に僕の彫り物ではありませんと答えます。けれどもたとえあの人であったとしても、あの人が最後に言ったように、あの人が死んだと知るのは世界で僕だけでいいことですから、やっぱりいいえと答えるでしょう。
お役に立て無くて申し訳ありませんが、そういうことなのです。
僕はあの人を、臨也さんを、どうしようもなく盲目的に、ただ、ただ。
愛しているのです。
だからあの彫り物は、僕が彫ったものでがありません。
あれは、臨也さんではありません。
僕の刻んだ花は、永遠に散らないのです。