米英普英詰め合わせ
(普英)
きっとそこには何も無いんだ。血眼で探したって、空一つ見つからないんだ。
俺はずっとそういう場所で、生き長らえて来たよ。
毎日死ぬ思いで、生き長らえて来た。だからきっと、誰より長く生きてしまうんだ。
ここってそういうところだ。
「別れた?」
珍しく素っ頓狂な声を上げた菊が、少し無礼だが可笑しくてカップに一口付けてから頷いた。余程意外だったらしい、口元に手を宛てて何か思案している。
見兼ねて肩を竦めて、視線を天井に注いだ。
「俺って、多分無理なんだ。あいつは、絶対俺を幸せにしてくれると思った。でも、その時点でもう善がってるだけじゃないか。奉仕行為に喜ぶのって余りにみすぼらしくねえ?もう良いんだ、諦めた、いやずっと前から諦めていたけど、もう諦めなければいけないんだ」
空はこんなに綺麗で、世界は綺麗で、ただいつも覚束ないよ。あまりにしんとしているものだから、寂しくなる。たぶん、の話はしたくなかったけど聞いてくれよ。おれの中には俺だけ充ちてるわけじゃないんだ。だから、こんなに、夥しい数のおそろしさを踏みしめている。
どこにもいかないでくれよ。ずっと、一緒にいてくれよ。
掠れた声でひとしきり呟いたら、もう忘れるから。
*
目醒めると思い出す文句は果たしていつ俺を殺めたのかは遠い記憶だけれど、確かに死体となって大きな川にたゆたえていた。流れに身を預けながら仰げば次に、大きな空が棚引いている。そして突き抜ける程の霹靂を持った、一面の青が眩ゆくなり瞼を閉じる。滴の一つ一つが陽光に反射し、光の帯が曲線を描きどこかへつづいていた。
このまま閉じ込めておくれよ。俺にはこっちの方が合っている。
腕を眼の上に置いて、唇を噛み締めた。押し潰すような闇がある。脈を通って冷水が流れている気がした。
起きたか?と声がした。ふと気付きそちらに顔を向けると涙が枕に流れた心地がした。柔らかい視線に射ぬかれる。 あぁ、一人じゃないのか。生きているのか。亡くしていた現実は、ひどく冷たく傍ら穏やかで、こいつの生きてる間はまだ生き返ろうとそう、抱き付いた。