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あへんちゃん公爵
あへんちゃん公爵
novelistID. 1390
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【トムシズ】SAVE ME

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…静雄静雄……

遠くから呼ばれる声にじわじわと睡眠が解かれていく。

「んっ……どうしたんですか?まだ、日が沈みきっていないのに…」

ギギギと重たい音を響かせ、静雄の木製の美しい彫刻が施された寝具『棺桶』が開かれた。
ほんの少しカーテンから差し込む淡い日の光に眉を顰めて顔を伏せると、静雄の眠りを妨げた本人が若干あわてた声で話を続ける。

「駄目だ、ここも…ばれた…」
「え…もう…?」

静雄は半開きの棺桶の重い蓋を一気に跳ね開けると、見事な跳躍で真紅の絨毯へと舞い降りる。

「トムさん、あいつ、もう来てやがるんですか…?くっそ!あのノミ蟲野郎!!!」

右手の拳を左手の手の平に打ちつけ、奥歯をギリリと噛み締めて静雄が目を血走らせた。
トムは手際よく荷造りをしながら「まだだ」とだけ短く呟き、

「日が沈んじまったらアウトだろ、今のうちに移動すんだ。急げよ静雄」

と、静雄へ仕度を促す。トム自身の棺桶の中に身の回りの物を詰め込み、ヴィトンのトランクをクローゼットから引っ張り出す。

「ていうか、トムさん…もうあいつ…殺しちまいましょうよ…2人でやれば…」
「だめだ!!!」

けたたましい音でトランクを床に投げつけると、トムは瞬時に静雄の前に移動をし、頬を両手で覆うと真っ直ぐに視線を合わせて声を荒げた。

「お前のマスターはあいつなんだ!あいつを殺したらお前も死ぬ!何度言ったらわかるんだお前!」
「だって…トムさん…トムさん命狙われてんすよ…あいつに…」
「当たり前だ!…臨也の花嫁だったお前をさらったんだからな…」
「俺が、勝手に…トムさんについて来たんです…俺のせいで…トムさんの…一族も…あいつが…」

静雄の冷たい手がトムの手を包み込み、辛い言葉をぽつりぽつりと吐き出す。まるで自分を傷付けるかの如く…。

「それ程の事をしてんだ、俺は…」
「俺です、俺の責任です…本当にすみません…」
「静雄…泣くな…とにかく此処から逃げよう、じきに夜が来る…」

血の気の無い冷たい頬を伝う涙は燃える様に熱く、後悔、憎悪、恋慕、慈悲、全ての感情をごちゃ混ぜにして溶かして流れた。

自身のマスターを裏切り、トムを愛してしまった静雄と、他人の花嫁だった静雄を愛してしまったトム。
静雄の本来のマスター臨也から、結界を張りつつ逃げ回る生活。
吸血鬼として位の高い臨也の力は強力で、逃げる先々で見つかってしまっていた。それでも愛し合う二人は離れたくなかった、離れられなかった。

「さぁ、臨也が来る前に、ここを出よう…」
「はい。トムさん…トムさん…トムさん…」