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昭和初期郭ものパラレルシズイザAct.7

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「おう。静雄じゃねぇか?」
「おう。手前。門田かよ?」
「久しぶりだなぁ、おい。」
「本当にかよ?復員して来て以来だな。」

珍しい顔と
こんな場所で会うもんだと
門田京平と平和島静雄が
声を掛け合って色街の往来の真ん中で

戦時中
互いに軍隊で少しばかり特殊な用向きの
同じ部隊に配属された仲間同士
人並み外れた怪力を持つ静雄は論外として
門田もまた非常に戦闘能力の高い男で
また年も丁度同じであった為
軍隊時代には何かと一緒に居た二人だが
戦後の混乱と復員後の混乱で
連絡を取る方法も無く数ヶ月

「お前確かに東京だっつってたが。まさかココでな。」
「そう言う手前がだろ。門田手前は堅物だろうが。」
「そう言うお前こそ。俺は実はここが今の仕事場でな。」
「はァ?!俺もだぜ?」
「何だよ。・・・さては用心棒稼業か?」
「そう言う手前もかよ?」
「あぁ・・・。縁があってな。そこの女郎屋で。」
「お互い様だ。俺はそこの陰間茶屋。」
「陰間っつうと・・・折原臨也のとこか?」
「あぁ。つかお前アイツの事知ってんのか?」
「・・・まぁな。そうか。あの店か。」
「まだ半月かそこらだけどよ。お前は?」
「あぁ。俺はもう少し前からここに居る。」
「店は?」
「虎丸屋だ。知ってるか?」
「虎丸・・・聞いた事ある気がすっけど。知らねぇ。」
「はは。まぁこの界隈、ずらっと並んでるからな。」
「違いねぇ。」

しかし暑いなと二人揃って浴衣を捲り
話をしながら歩くうち
互いの近況や店の場所
自然と話は粟楠会の四木へと移る

「そか。あいつ手前んとこの店も傘下に置いてんのかよ。」
「つぅかここら一帯全部が粟楠会のシマだ。用心しな。」
「あぁ。なぁおいそこの茶店で」

一杯汁粉でも食おうぜと言う静雄に
お前は相変わらず甘味が好きだなと
苦笑した門田が付き合ってやる

「俺は汁粉。」
「俺は・・・同じものを。」
「え。手前そんなの食う奴だったか?」
「食うか。お前が二人前食え。俺は要らねぇ。」
「はぁ?」
「だって他に頼むもん無ぇし。まさか水だけつぅワケに」

いかねぇだろが
何か注文しねぇとよ
と置かれた水を飲む門田という男は
こういうところとても律儀な男だった

「心配すんな。金は俺が払う。奢りだ。」
「つぅか手前は。相変わらずな男だな。律儀で。」
「知るか。性分なんでな。」

そう言って門田は
濃い灰色の麻の着流しと同系の色の
被っていた鳥打ち帽を脱いで机に置く

「しかし堅物の手前が色街で働くたぁな?」

驚いたぜと言う静雄に
門田は髪を梳いて苦笑した

「うちは俺の母親がこういう街の出でな。馴染みがあんだ。」
「へぇ。そうなのか。」
「あぁ。まぁ元の出身は東北の方なんだがな母親は。」
「へーぇ。東北か。」
「つっても俺は行った事無ぇからあっちの事は知らねぇんだが。」
「ほぉ。」
「・・・さっき折原臨也を知ってるか、って言ったろ。」
「あぁ。言った。お前とあいつって接点無さそうじゃねぇか。」
「まぁな。・・・母親繋がりの縁だ。あいつとは。」
「はぁ?手前の?その、東北の出のおっかさんと、か?」
「あぁ。」

そこで
汁粉が二つ運ばれて来て
当然のようにそれぞれの前に一つづつ椀が置かれ
若い女の店員がほのかに頬を染めて下がった後で
門田が自分の前のそれをぐいと静雄の前へやる
静雄はそれをありがたく受け取って
白い麻の浴衣の袖を肩へとはしょると
割り箸を取って片方を口に咥えて
パキリと割ると汁粉を啜る

「んで?」
「ん?」
「手前のおっかさんとあいつが何だって?」
「あぁ・・・。言っていいもんかな・・・。」

知り合いだっつっても
家族とか身内じゃねぇしよと
律儀な門田が袖を捲って腕組みをすると天井を仰ぐ

「まぁ・・・アレだ。臨也の母親も色街の出ってこった。」
「成る程な。ムカつく程小綺麗な顔してやがるしなあいつ。」
「あぁ。臨也の母親は俺の母親と同じ店の一番の売れっ子だった。」
「ほぉ。まぁ納得だけどな。」
「何でも東北界隈で一番格式のある店で。大勢の女郎を抱えてた店の
一番の売れっ子で『津軽小町』って有名だったそうだ。」
「フーン。で、お前のおっかさんともそこでの知り合いだってか?」
「そうだ。丁度身請けされた頃も一緒でな。二人とも東京へ来て。」
「へぇ。凄ぇ偶然だな。」
「互いに東京で身寄りも無ぇし。まぁ仲良くしてたんだな。」
「ほぉ。」
「子供も同じ時期に産まれたしな。俺とお前とあいつ同い年だぜ?」
「本当にかよ?まぁでも考えてみりゃそんなモンか。」
「あぁ。・・・だがまぁ何つぅか・・・。」

俺の母親はそれなりに幸せな身請けだったと思うんだが

門田が言い淀んで黒い髪を両手で梳いてまた上へと目を泳がせる

「臨也の方はそうじゃ無かったもんでな。」
「どういう事だ?」
「臨也の母親には好き合った相手が地元の客に居たんだが」

身請けした旦那は金にモノ言わせて強引にそれ引き離して

「こっちへ連れて来て。相手は不審死。むごい話だぜ。」
「・・・フーン。」
「臨也はその相手の子だ。」
「え・・・?」

門田の奢りの二敗目の汁粉を勢いよく啜っていた静雄が
椀に口をつけたまま
上目で門田を見る
その門田は
天井から目を下ろして腕を組んで静雄を見た

「産まれた最初は母親も旦那に言い繕ってたみてぇだが」
「臨也は顔立ちは母親似だがどうしてもそんなモン」
「誤魔化し切れるもんじゃ無ぇだろ」
「特に相手は帝大の医科に通う程の秀才だったそうだしよ」
「学には縁の無ぇ旦那の子にしちゃ臨也は利発過ぎて」
「こりゃおかしいと旦那もすぐに気付いたようだ」

それでまぁ

門田は言って溜息をつく

「あいつの母親が死んだら直ぐその日のうち」

あいつは

「陰間茶屋へ売られたんだ。数えで13だったかな。」

もう
10年も前になるな
あいつは母親の葬式にも出ちゃいねぇよ確か

門田がもう一度溜息をついて髪を掻く




ぱきり

静雄の持っていた割り箸が折れた




「あ・・・。折っちまった。」
「まぁもう一膳使え。そういうこった。あいつとはな。」
「解った。話してくれてありがとよ。」
「イヤ個人的な話だからな。話して良かったんだかな。」

門田が苦笑して水を飲み

「だが」

二膳目の箸を使って汁粉の残りを食べる静雄に
少しだけ微笑みかける

「何でだろな。お前には話しといた方がいい気がした。」
「はぁ?何だそれ?」
「何となくだ。気にすんな。それよか俺もう行くぜ?」
「あ、待て。俺ももう終わるから。」

お互い
こんな場所でシケ込んでちゃマズいよな
と静雄が汁粉をかっこんで
鳥打ち帽を被って立つ門田に続く
そしてぽうっと見送っている店員を後に
店を出て「ごっそさん」と静雄は門田に手を合わせた

するとそこへ

「あれぇ、シズちゃん?」

こんなトコで何してんのさ

嫌味をたっぷりと含んだ聞き慣れた声

「・・・臨也。」
「え・・・?ドタちん?」
「・・・ドタちんじゃねぇ。門田だ。」
「わぁ、ドタちん?久しぶりぃ!」

静雄を押し退けるようにして
浅黄色の絽の着物の袖を翻して