昭和初期郭ものパラレルシズイザAct.7
臨也が下駄で背伸びして門田の首へと抱きつく
見れば何処かへ行く途中なのか
その後ろには
日傘を持たされ手には風呂敷包み
青の浴衣に白い兵児帯を蝶結びにした帝人が
おっかなびっくり瞳を見開いて
この人は誰と門田を見て居る
「ほら帝人?この人はドタちん。俺の幼馴染みだよ。」
「あっ、どっどどうも!竜ヶ峰帝人です!」
「ドタちんじゃねぇがな。門田だ。」
門田の首にぶら下がるように抱きついたまま
帝人に門田を紹介する臨也を見て居ると
何故か己の機嫌が急降下するのが解って
平和島静雄は面白くなく
ケッと横を向く顔を
面白そうにチラと臨也の黒目が追って
満足そうにゆるく口元が笑んだ
「コラ。臨也。重いし暑ぃ。離れろ。」
「やだなぁ?俺はそんな重くないはずだけど?元気?」
「見りゃ解るだろ。変わりねぇ。お陰様でな。」
「そ?だったら良かった。話は聞いてるよ?」
フフ
と
蠱惑的に臨也が門田に微笑みかけ
静雄の機嫌が更に低下したところへ
「あーっつ!京平!!居た!!」
と
若い男の声がすると同時に
「アンタ誰よ?」
と
その声の主が臨也の肩に手を掛けた
用心棒としての立場から
はっと身構えた静雄を
臨也がいいからと目顔で制し
その若い男の顔を見る
覗き込むように臨也の肩に
手をかけたまだ若い男は
静雄達よりも何歳か年下だろう
何処かに子供を残したような雰囲気で
それで居て睨みを利かせている静雄にも
全く物怖じしていない
女好きのする小綺麗な顔にカンカン帽
はだけた開襟シャツの上に白麻の上着の袖をまくり
手入れの行き届いたズボンと靴
一見して何処かの金持ちの放蕩息子がこの若さで
女好きで色街に入り浸っているのかと思わせる
そんな物慣れた空気をまとっている
「俺は折原臨也。そこの駄羅離屋の主人だよ。宜しく。」
「あぁアンタが。あの有名な。」
「そう言う君は恐らく」
そこの虎丸屋の跡取り息子の
「六条千景君だよね?このドタちんの雇い主ってとこ。」
「ドタちん?あぁオッサンの事かよ?」
「フフ・・・。成る程ね。」
「なぁアンタ。悪ぃけどこれ」
俺のなんだよな返して貰うぜ?
と
千景がクイと臨也の肩を引き
「どうぞ?」と臨也が笑って
門田を離す
「千景、お前はまたそういう事を言うんじゃねぇ。」
「何でだよぉ?オッサンは俺の。だろ?」
千景はニッと笑って自分より高い門田の肩に腕をかけ
「で?アンタうちのに何の用?」
と
挑発的に臨也に微笑む
「うちの、じゃねぇ。確かにお前のとこの用心棒だがな。」
「いーじゃんか、細けぇ事言うなよオッサン。」
そんな千景と門田を見て居た臨也が
フフと笑ってくるりと身を反転させて
苦虫を噛み潰しているような顔の静雄の腕に
つい、と掴まり浴衣に白い頬寄せる
「ちなみにうちのはこれ。どう?うちのも中々いい男だろ?」
「はぁ?何言ってんのアンタ。京平のがいい男だぜ。強ぇし。」
「まぁ確かにドタちんもいい男なのは認めるよ。地味だけど。」
「いーじゃんか。男は強くてナンボだろ。喧嘩じゃ負けねぇ。」
「あ、じゃあ一対一でやらせてみる?強いようちのシズちゃん。」
「何言ってんだアンタ。京平なんか負け無しだぜ。俺よか強ぇし。」
「君よか強くたってたいした自慢にはならないだろ。」
「何だよアンタ、俺とやりてぇの?」
「やってあげてもいいよ?言っとくけど俺結構強いけどね?」
「もう止めろお前ら。」
門田が
溜息をついて千景のカンカン棒をグイと引き下ろし
「何やってんだ手前。こんなガキ相手に。」
と
静雄が呆れて臨也の黒髪を押さえる
「だってさぁ。」
と
千景がむくれてカンカン帽を押し上げ
「止めてくれる?この馬鹿力。」
と
臨也が嫌みたらしく静雄に微笑む
「あぁもう!ほら行くぞ。俺店に帰らねぇと。じゃな静雄?」
「おう。またな。」
門田は
まだ文句を垂れている千景を
犬か猫の子か何かを引っ張るようにして連れてゆき
それをフフフと見送ってから
「あー。面白かった。」
と
臨也がパッと静雄の袖を払って離す
「手前・・・。」
「だって面白いじゃない?あの子」
ドタちんのこと
凄く気に入ってるみたいだしさぁ
と
臨也がフフと笑ってさぁ行くよと帝人を促す
「シズちゃん、サボってるとお給金払わないよ?」
「手前が俺で遊んでやがるからだろ!」
「おや?遊ばれてるのが解ってるんだ?それは失敬?」
ご免遊ばせ?
と
令嬢か何かの風に優雅に腰を折って臨也は謝って
顔を上げてから思い切り意地悪く
フフフと笑う
「クソ!!」
覚えてろ
と
足音も荒く去る静雄の背中を
見送った帝人が
ぽつりと
呟いた
あの人
馬鹿なんだか
賢いんだか
「解らない人ですね・・・。」
「フフ。シズちゃんはそこがいいんだよ。君もね?」
「僕、ですか?」
「そう。あどけない顔をして」
中身は
「全然違う。そこがいいんだ。皆そのうちに気付くよ。」
ちゅ、と
戯れのように唇を吸って
臨也が帝人に微笑みかける
さ、行こうか
と
歩き出す往来は
夏の陽炎
ゆらゆらと
揺らめく道を
帝人にささせた日傘の下
ゆっくりと
折原臨也は
さっきついでに
静雄の帯から抜き取って奪った扇子で
優雅に胸元へ風を送りながら
今頃扇子の無いのに気付いて
さぞかし怒っているであろう
用心棒を想像すると満足で
微笑みを
浮かべ
歩いた
作品名:昭和初期郭ものパラレルシズイザAct.7 作家名:cotton