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臨帝小ネタ集:11/11追加

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歯磨き



 食事の最中に頬の内側を思い切り噛んでしまったせいで、歯磨き粉が沁みる。その刺激に逐一顔を歪めながら歯を磨く帝人に、臨也からの提案。
「やってあげようか?」
 特に面白がっている様子もなく、例えば帝人が学校の宿題に頭を捻っているときに「どこが解らないの」などと気まぐれにかけられる声と同程度の何気なさ。痛む箇所に歯ブラシや歯磨き粉が接触しないよう自分で注意しながら歯を磨くのは意外と大変だし、臨也も何か企んでる気配は見受けられないので、帝人はありがたくその申し出を受け入れた。


 しゃこしゃこしゃこ。丁寧に歯茎をくすぐるように柔らかく動く歯ブラシ。優しく傷つけないようにするそのやり方に、なんとなく昔まだ母親に歯を磨いてもらっていた頃を思い出したところで気づく。もしかしたら彼は、彼の妹の歯をこうして磨いてやっていたことがあるんじゃないかと。
 どこからか持ってきた折り畳み式の椅子に帝人を座らせて自分はその正面に立ち、左手を帝人の頬に添えて珍しく何も喋らずただ歯ブラシを動かしている臨也の表情は、常の笑顔でもなくかといって真剣でもなく、なんとなく気の抜けたような印象。それでも手慣れた様子であるのだから、やはり経験があるのだろうなと帝人は思う。

「こんなものかな」
 結局、自分でやるよりもずっと痛みのないやり方で恙無く歯磨きは終了。この、一応は付き合っているという関係の相手の前で、ずっと口を開けているのは少々どころでなく恥ずかしくはあったが、それ以外の問題はない。
「はい、ぺっしてー」
 そうしてどうということのなさそうな顔で水の注がれたコップを渡された瞬間、彼の口から漏れたその言葉に帝人の思考がフリーズ。

(ぺっ……ぺっしてーって、ぺっしてーってなんですか臨也さん! 何その子供言葉! 意外おかしい可愛い!)

 と、纏まらないながらも纏めてみればこんな言葉の数々が脳内を駆け巡っている帝人の前で臨也にも変化が起こる。
「いっ今のなし! なしだから!」
 一瞬にして赤く染まった顔を隠すようにして慌てて洗面所から出て行こうとする後姿に、やはり慌ててうがいを済ませた帝人が叫ぶ。
「いざやさんかわいい!」
「うるさい! あとうがいは三回以上やりなさい!」
「わ、そうきましたか! 臨也さんがお兄ちゃん!」
「だから君うるさいってば!」


 その後、臍を曲げた臨也は自室に鍵をかけて閉じこもり、帝人は事務所スペースのソファで眠ることになったのだが、それでも満足だった。意外な一面が見れたくすぐったい嬉しさと、それから、眠る前はなかったはずの毛布が自分にかかっていたのを朝になって発見したので。

作品名:臨帝小ネタ集:11/11追加 作家名:ゆずき