臨帝小ネタ集:11/11追加
デレいざさんとヤンみかくん
「帝人君になら潰されてもいいよ」
俺なりの愛情表現だというのに、目の前の彼は怪訝そうに眉を寄せるばかり。ああ悲しい悲しい!
「君だけだよ。君以外には許してやらない」
「えっと、すみません。意味がちょっと」
解らないんですけど……と尻すぼみになっていく声。泳ぐ視線。これは戸惑ってるな。
「そのままの意味だけど?」
「そ、そのままって、あの」
「君にならいいよ」
「……」
「俺はね、死にたくないしできるだけ長生きしたい。なるべく五体満足で元気なまま『俺』という存在が途絶えるその瞬間まで人間を愛して愛し続けていたいんだよ。解るかい? 解るよね。だから卑怯なまでに卑劣なまでに俺は保身を欠かさない自分の手を汚さない。表舞台に立って回避できるはずの恨みを買うのはごめんだからね。生存率が下がる。人間としての限界くらいまでは生きていたいんだ。でもね」
一度言葉を区切る。彼の丸い子供じみた目を見据えてその戸惑った顔を見ている内に、ふと口元が緩むのが自分でも解った。
「君になら、いいかなって思うんだ。君になら俺を途中で終わらされても、それはそれでいいかなって。それだけのことだよ」
俺の話はこれでおしまい。横に座った彼から、膝の上に乗せたノートパソコンに目線を移して仕事(ほとんど趣味だけど)に戻る。ぱちぱちかちり。俺がキーボードをタイプする音だけが静かに響く。テーブルの上に置いたカップを取ったら、中の紅茶はすでに冷えてしまっていた。後で淹れ直そう。
「僕は」
彼の声。消え入りそうな、自分でも何を言いたいのか解っていなさそうな、そんな声。
「ぼく、は」
さてさて。何を言い出すのやら。帝人君は時折俺の予想を遥かに飛び越えたことを仕出かすからもう目が離せないことこの上ない!
「どうせなら、あなたを側に置いておきたい。そんな、潰すとか、終わらすとか、そういうことをしなくちゃいけない、そんなことができる状況になったら、僕があなたを隠してあげます。誰の目にも触れないところへ」
ああ、そうくるのか。でもそれは無理だと思うよ。
「側に置いても三日で飽きるだろうね君」
「そしたら外に出してあげます。それで、また何か色々やってくればいいですよ。そうしてどうにもならなくなったらまた僕が側に置いてあげますから」
……こっわいこと言うなあこの子。
「僕が臨也さんを守りますから、その、あまり悲しくなるようなこと言わないでください」
横目でちらりと見た彼の表情は真剣で、無垢で、汚れのない、神に祈りを捧げる信徒のよう。そこに悪意は微塵もない。彼は全くの善意から、そして俺への恋情から、言っているだけなのだ。
死なせるくらいなら飼い殺しにしてやると。
作品名:臨帝小ネタ集:11/11追加 作家名:ゆずき