臨帝小ネタ集:11/11追加
次回のバレンタインにご期待ください
通い慣れた臨也さんの事務所。窓を背にしたデスクでパソコンに向かっている臨也さんも見慣れた光景、見飽きはしないのが自分でも不思議だけど。その、慣れた状況に出現した新しい要素。
「臨也さんそれ」
「波江の、」
「ええっ!?」
「試作品と本人曰く失敗作だよ。弟くん用の」
あ、そうですか。と我ながら気の抜けた声が出た。紅茶の注がれたティーカップの横、お皿に盛られたクッキー。見た目は黒で甘いチョコの匂い。
「誰かに貰ったのかと思いました」
「貰った分はもう食べたよ。やっぱ手作りっていいよね。それぞれ個性的でさぁ」
「はあ。臨也さんの普段の行動を見てると毒が入ってなかったのが不思議です」
「入ってるのもあったよ?」
目を細めて微笑む臨也さんはとても優しそうに見える。自身を害する行為ですら、この人は笑って楽しんで喜んで受け入れる。それが人間のすることならば。……受け入れた後どうするかは、そのときの臨也さんの気分次第だけれど。でも、どんな扱いをしようと、臨也さんは人を否定しない。ありのままを受け入れる。その人の隠しておきたい気づいていない目を背けている本当なら一生知らずに済むようなそんなモノですら、臨也さんにとっては愛すべきもの。人間であるのならどんな在り方でも感情でも余さず残さず貪欲に平らげてしまう。この人と関わる誰かにとって、否定をしないという姿勢は救いになるのかもしれない、感情の全てを暴き尽くすという姿勢は精神の崩壊すら招くかもしれない。
「帝人君?」
首を傾げる臨也さんになんでもないですと返す。臨也さんはまた一枚クッキーを摘む。整えられた爪がちょこんと乗った指先で口元へと持って行き、形のよい歯を立てて崩したそれが咥内へと入っていく。噛み砕かれ咀嚼されたものが喉から胃へと落ちていってるのが白い皮膚が蠢く様子で分かる。唇を拭った親指の腹を軽く舐めた舌があかい。
臨也さんに毒入りの何かを渡したのが誰なのか、どんな関係なのか、どういう感情で以って行動に移したのかは知らないしそこまで興味もないけど(だってきっと胸の悪くなる、もしくは痛くなる話に決まってる)、その子は可哀相だ。彼女(?)の持ち得る全てを曝け出させるまで臨也さんは止まらないだろうから。でも羨ましい。少なくとも臨也さんがその全てを消化し終えるまでの間は優先して相手をしてもらえるだろうから。
「……来年は僕も作ります」
「その反応は考えてなかったなあ」
死なない程度でよろしくね。臨也さんが笑った。
作品名:臨帝小ネタ集:11/11追加 作家名:ゆずき