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臨帝小ネタ集:11/11追加

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みかどインクローゼット



 なんだこれ。というのが最初の感想。人間観察が趣味で特技で仕事な臨也であるが、それでも一目見てまるで状況が掴めないということはそれなりにある。だからこそ人間は面白いのだし人生は楽しい。彼の信者たちは折原臨也を神のように信仰しているが本当に神だったとしたらそれはとてもつまらないだろうしきっとこんなにも人間を愛しはしないだろうと思う。できないことがあって、分からないことがあるから、できたとき分かったときの喜びもひとしおなのだ。

 なんてことを考えながら目の前の光景に思考を戻す。出先から戻り、夜も遅いため波江も誰もいない事務所兼自宅の寝室、備え付けのクローゼットを開いたらなぜか人間が入っていた。抱えた膝の上に乗せた頭、その実年齢よりもずっと幼い顔立ちが更に幼く見える安心しきった寝顔。
「何してるの」
 ほとりとこぼれ落ちた疑問。答えはなく健やかな寝息だけがすうすうと耳に届く。膝を折って目線を合わせ、どうしたものかと息を吐く。
「……帝人君」
 彼がここにいること自体は構わない。合鍵は渡してあるのだし、いつでも来て構わないと言ったのも自分だ。ただ帝人は律儀な性格をしているので、訪ねてくる前にメールや電話で連絡をする。ここが臨也の仕事場であるということを帝人なりに慮った結果らしい。別に仕事相手とはち合わせたところで臨也としてはアルバイトの子ですよ、と流してしまうつもりだが。彼にはたまに、臨也自身の趣味と実益を兼ねてネット上での情報収集やデータ整理などを頼むこともあるので嘘ではない。
「ここって寝心地いい……わけないよねえ。床に座って寝るのと同じだし。狭い所が落ち着くとか? そんな性質だったなんて初耳だけど」
 主にコートやジャケット、スーツなどを吊るしてあるクローゼット。特に彼の興味を惹くような物珍しい品はない。ただ眠るだけなら、この寝室のベッドや事務所のソファのほうがずっと帝人のお気に入りだ。あの四畳半の隅に畳まれている煎餅布団に比べれば天と地の差だろう。あんな布団、正直に言って床に直接寝るのと変わらないと臨也は思っているがあまりに正直すぎても機嫌を損ねるだけなので(日頃から臨也の言動行動を分かりにくいと不満に思っているようなのにわがままなことだ)コメントは差し控えている。沈黙は金。当然状況によっては雄弁だって金だが。
「体、痛くなりそう」
 帝人の身長は平均以下だが特別小柄ということもなく、だからこうして縮こまって眠っていたら筋肉や関節に負担がかかるだろうことは明白だ。疲れを癒すための睡眠で更に疲れてどうするのやら。
「帝人君」
 起こそうかどうしようか、どちらでもよいから中途半端な大きさの声。できれば面白く、予想もつかない反応を返して欲しい。それを引き出すために自分はどう動くのが得策か。面白い、予想もつかない、には平和的な意味も物騒な意味もあるが今回は前者でいこうと方向性を固める。仕事明けで疲労を感じているから無駄に体力を消耗したくないという、それだけの理由で竜ヶ峰帝人の身の安全が保証される。今のところは。目覚めた彼の反応次第ではどんな展開になるか臨也にも分からないが。自分の期待に応え想像を裏切る確率の高い彼と一緒にいるのはとても楽しい。愛しい。思わず含み笑い。
 そこで、何やら不穏な空気を察したのかそれとも口にしたいくつかの問いかけが届いていたのか、帝人が頭を振って小さく唸り、重そうに瞼を上げて下ろしてまた上げた。

「……いざやさん」
 寝起きらしく緩慢な動作で伸ばされた手が臨也の指に触れる。温かい。普段は運動不足で代謝が悪いのか、臨也よりも少しだけ低い体温の帝人。なんとなく見た目相応の子供体温のような気がしていたから、初めて触れたときは意外に思った。そんなどうでもいいことを覚えている。
「おかえりなさい」
 そう言って安心したようにまた目を閉じる。臨也の指を握ったまま、黒のコートとジャケットに囲まれて健やかな寝息を立てている子供にどうにも毒気を抜かれて、はあ、とため息を一つ。
「遊ぶのはまた今度、ね」
 困ったような、それでいて情愛の滲む声とは裏腹に心残りのかけらも感じさせない動作で掴まれた指を抜き取り、立ち上がってジャケットを脱いでハンガーに掛け、そうしてゆっくりとクローゼットを閉める。
「おやすみ帝人君」

作品名:臨帝小ネタ集:11/11追加 作家名:ゆずき