臨帝小ネタ集:11/11追加
嵐が来たよ
ごうごうびゅうびゅうと凄い音がしている。夏の盛りは過ぎたとはいえまだ残暑も厳しい頃にやって来た台風。そういえば、帝人君のあのおんぼろアパートは大丈夫だろうか、なんて思い立って来たけど……よくこんなとこで寝れるなこの子。窓ガラスやドアとか、飛んでってもおかしくなさそうな状態なのに。
それでもいつものように薄い布団で二人で眠る。違うのは外の騒がしさ。そんなもの気にもせず、俺の腕の中で彼は眠る。屈託のない表情を晒して警戒心の欠片もなくただ眠る。俺という人間の中身を知らないわけでもないのに、暢気なものだ。幼い印象の寝顔に触れてみる。ふに。丸みを残した頬は未だに柔らかい。ふにふに。つついたり引っ張ったり。眠りは深いらしく起きる気配はない。頬から耳を辿り後頭部へと手を這わす。手の平に感じる、短く整えた硬い髪の感触。正面からじっくりと彼の顔を観察する機会は意外と少ない。俺の顔を見るのは好きなくせに俺に見られるのは苦手なようだ。そんな反応は慣れてるからいいけどね。
建物全体が揺れているような感覚を覚える暴風に窓ガラスを打ち付けては跳ねる豪雨、それらが合わさった音が重く響きながら通り過ぎまたやってくる。真っ暗でうるさい部屋の中、隣にはこちらを信頼しきった馴染んだ体温。抱いた既視感の理由はすぐに判明。舌打ちしそうになるのを堪えて代わりに小さくそっと息を吐いた。……昔は、台風に怯えて俺の布団に潜り込んでくる程度の可愛げはあったのだ、あの妹たちにだって。帝人君は別に怯えてるわけじゃないけれど、むしろこの微かな非日常に妙にテンションを上げていたけれど、そんなことは問題でも何でもないただの日常の一部。そう、日常だ。彼が側にいることは日常で、彼にとっても俺が側にいることは日常なんだろう。日常。日常。俺が捨てたはずのもの、彼が厭っているはずのもの。
嵐はまだ去らない。
作品名:臨帝小ネタ集:11/11追加 作家名:ゆずき