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臨帝小ネタ集:11/11追加

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しりとり



「流れ星」
「し、まうま」
「マニュファクチュア」
「なんですかそれ」
「工場制手工業。そのうち日本史か世界史か政経か現社でやるんじゃない?」
「はあ、えっと、圧縮」
 二人でも大きなベッドに寝転がって熱を持った肌が徐々に冷えていくのを感じながらやっていることが、しりとり。色気ってなんだろう。
「屈折率」
「ツール」
「ルビコン川」
「……なんですっけ、聞き覚えはあるんですけど」
「賽は投げられた、ユリウス・カエサル」
 ふあっとあくびを一つ。いつもは晴天の空のように澄んで爽やかなその声が、今は少し掠れていてどきどきする。
「どうも。わ、わーわかめ」
「目覚まし時計」
「インスタント」
 僕は日常的一般的な単語、あとネット関係のものでぐるぐると対応しているのだけれど臨也さんは何がどう連想されてそんな反応になるのか、っていうのが本当に分からない。単純な知識量の差なのかなあ……。
「トリケラトプス」
「す、墨」
「みかど」
 なんの意図もないように(少なくとも僕にはそう聞こえた)放たれた言葉に思考が固まる。閉じたり開いたりと眠たげな動きを繰り返していた瞼、その内側の瞳がどこかぼんやりとした色でこちらに向けられる。
「帝人君?」
「あ、の……」
 顔にじわじわと熱が集まっているのが分かる。無意識の内にシーツをぎゅっと握りしめ、視線を合わすことはできずに目を逸らし、口を開く。
「聞こえ、なかったので……もう一度」
 耳に入ってきたのは情けなく震える自分の声。それから、目の前の人がふっと漏らした吐息。……それが、呆れや面倒といった感情を含んでいないことを祈るしかない。
「聞こえなかったんだ?」
「そっそうです」
 今度は笑い声。なにか企んでる風でも馬鹿にしているようにも聞こえない(おそらく)。指先で、むき出しの肩を叩かれた。顔を上げろ、ってことなんだろうなあ、これは、うう。
 そっと、窺うように臨也さんのほうを見てみれば、いつもの鋭さの和らいだ眠たげな目と視線が合った。きれいな形をしたきれいな色の目。そっと開いた唇もうっすら覗いた歯もきれいで、そこから放たれたきれいな音が、

「帝人」
 僕の名前を呼んだ。

「聞こえた?」
「きき聞こえましっ、た!」
「じゃあ続き。みかどの『ど』」
「え、あ……どっドイツ」
「都々逸? つー津市」
「子爵」
「孔雀」
「釧路」
「ロック」
「く、熊」
「マルク」
「車!」
「マイク」
「う、えと、杭」
「イルクーツク」
「なんですか」
「ロシアの都市名。イルクーツク州の州都」
「……区役所」
 半眼でじーっと臨也さんを睨んだらおかしそうに笑われた。これで「く」縛りは終わりだろう、多分。
「酔っ払い」
 よし! 次は「い」だから、
「臨也さん」

 ………………え?

「さん、はいらないよね」
「は、い?」
「臨也さん。『ん』で君の負け。いざや、でいいだろうそこは。言い直さないの?」
「あ」
 そうだ。一言「さん」を抜かせばいいだけの話でつまりつまりええと。
「い、ざや…………さん」
「なに?」
「……僕の負けでいいです負けです負けましたもう寝ましょうほら!」
 勢いよく臨也さんに背を向けて布団を頭まで引き上げる。これはない。我ながらほんとない。『い』で反射的に臨也さん、とか、なんかこう駄目すぎる。ていうか臨也さんがからかうでもなく冷静に突っ込んできたのがきつい。そこは思いっきり笑い飛ばして馬鹿にしてほしかった。居た堪れない。顔が熱い。
「寝るの?」
「寝ます!」
「そう。じゃあ俺の勝ちだね。朝ご飯よろしく」
 ああ確かそういえばそうだった朝食をどちらが作るかでこんなことしてたんだったすっかり忘れてた。
「あの、期待はしないでください」
 ぱちり、と僕の頭越しに腕を伸ばした臨也さんがサイドテーブルの明かりを消した音。布団の隙間から覗き見た部屋の中は真っ暗だ。
「分かってるよ。本当に食に関心がないよねえ帝人君。味付け一つ取ってもその人間の構成要素が分かるっていうのに。まあ君は人間にはあまり興味がないし、仕方ないといえば仕方ないかな」
 彼に背を向けたままの僕の頭を、叩くと撫でるの中間くらいのやり方で触れて、さっさと寝る体勢に入ってしまう臨也さん。僕を抱き寄せたり自分のほうへ向かせたりとかはしない。僕が自分の意志で背を向けたのだから、やはり僕自身の意志で振り向くまでは、手を伸ばすことすらしてくれないのだ。こういう場合は。徹底的な放置プレイのようでもあるし、僕のやり方を受け入れてくれているようでもある。どちらなのかは分からない。
「おやすみ」
 だからどうしたって、折れるのは僕の方。なるべく顔を合わせないように振り向いて、臨也さんの肩の辺りの顔をすり寄せる。僕の意思を優先してもらってるのに(一応は)折れるってのも変な言い方だけど。
「おやすみ、なさい」
 返事はなかったけれど背中に回された手の、慣れた皮膚の感触や指の形が気持ちよかった。
作品名:臨帝小ネタ集:11/11追加 作家名:ゆずき