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お似合いの二人

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「ごちそうさまでした」
「お粗末さま。味噌とか砂糖なんかの調味料も適当に買ってあるから、たまには自分で作るんだよ? 帝人君、細っこいしひょろいし体力ないし殴り合いの一つもできない上に逃げ足遅いのに生活は不規則でトラブルに首突っ込みたがるから不安だよ」
 流れるようなその言葉の塊に反論できない。だってその通りだからだ。臨也さんだって十分細いし生活不規則だしトラブルに首突っ込むというか自分がトラブルの種みたいな人だけど、僕と違って身を守る手段をいくつも持ってる。回転の速い頭だったり相手を煙に巻く話術だったりナイフだったりパルクールだったり。せいぜい『数』くらいしかない僕とは違うのだ。それだって使い方次第では敵にも味方にもなる危ういものだけど。
「食生活くらいは、まあ、気をつけてみます」
「嘘くさーい」
「臨也さんに言われるなんて心外です」
「酷いなあ。俺いま帝人君のためなら通い妻してあげてもいい気分なのに」
「それこそ嘘でしょう」
「ほんとだよ」
 手際よく使った食器をまとめて流しへ運んだ臨也さんは、そのまま当たり前みたいに洗い物を始めた。……確かに本人曰く通い妻できそうなくらいには、料理だけでなく家事全般に慣れてそうだ。
「何か手伝いますか?」
「いいよ。二人分だからすぐ終わるし、ここ狭いし」


 結局、買い物、料理、後片付けと全てお世話になってしまった。僕の家に泊まったんだから、臨也さんはお客さんのはずなのに……さすがに申し訳ない。
「い、臨也さん!」
「んー?」
 洗った食器を布巾で拭っている臨也さんの背に声をかける。少し俯いているせいで髪の隙間から日に焼けていないうなじが覗いている。首から背中、腰、そして足元に至るまですっと伸びたラインが綺麗で思わず見とれる、って見とれてる場合じゃない。
「今日は、あの、もう帰っちゃいますか?」
「帰るよ。仕事あるし。帝人君も学校だろ? 早く準備しないと遅刻するよ」
「そ、そうですね」
 この人、案外こういうところはしっかりしてるっていうか時々ちゃんと大人の顔をするというか。今まで臨也さんがふらっとうちに立ち寄ったことはあってもこうして一緒に朝を迎えて朝ご飯一緒に食べたのは初めてなんだからもう少し、こう、空気の一つや二つ読んでくれてもいいんじゃないかな! とか、思ったり、してるのは僕だけなんだろうな。

「帝人君」
「え? う、わっ!」
 つらつら取り留めなく考えてたらすぐ目前に臨也さんの顔、が。
「また来るよ。それとも君が来る?」
「えっと、それは」
「うん、いいかもしれないね。今度うちに泊まりにおいでよ。俺、帝人君の手料理食べたいなあ」
 いつの間にそんな話に、って、手料理? 泊まり? え?
「週末でいいかな。何か予定ある?」
「なっないですけど」
「よし決まり。約束ね」
 ひょいっと僕の手を掴んで小指を絡める臨也さんの手は、洗い物をしてたからいつもより少し冷たかった。指きりげんまん、なんてこの人には全然似合わなくて、ちょっとおかしい。
「じゃあ帝人君? 次の約束もしたことだし安心して学校に行っておいで」
 恋人に、というよりは年下の家族か友達に接するような態度で臨也さんが僕を見る。虹彩すらひどく整っていてとてもきれいで、吸い込まれそうな目。いつだって高みから嘲るように慈しむように人を見ているはずのその目が、今はこんなにも穏やかで、それは僕に向けられたもので……駄目だ。朝から泣きそうだ。

「料理、ちゃんと練習していきますね」
「うん。楽しみにしてる」
 ぽんっと僕の頭を撫でている臨也さんは、今日もどこかの誰かを突き落として救って打ち捨てるのだろう。だって仕事があるって言ってたし。それは臨也さんの趣味で仕事の一環だから、きっと今日もこの人のせいで誰かが道を踏み外すのだ。
 そんな最悪な人との約束に胸を躍らせている僕も中々に最悪。って考えたら僕たちはなんだかとてもお似合いのような気がして嬉しくなったので笑ったら、臨也さんも笑ってくれた。

 朝の柔らかな太陽より、窓の外に広がる青い空より、ずっとずっと惹きこまれる、きれいな笑顔だった。
作品名:お似合いの二人 作家名:ゆずき