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闇からの脱出

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 コスモス陣営の野営地の天幕の一つで、光の戦士とオニオンナイトを除く八人の戦士達が車座になり座っていた。
「じゃあ、始めるよ」
 セシルが見渡して言えば全員は頷く、セシルも一つ頷いた。
「作戦内容は至ってシンプル、パンデモニウム内に突入してライトとオニオン救出。
ただ、皆も知っている通りパンデモニウム内は入り組んでいて狭い。その為、少数精鋭で行く事にする」
 セシルの説明に全員は頷く。コスモス陣営のリーダーはあくまで光の戦士だが、
作戦の立案は主にセシルの役目であった。
「数は四人、まずはバッツとティナは残って二人の治療の準備をしていてくれ」
 セシルの説明を引き継いでクラウドがメンバーを選出する。
光の戦士の次に年齢の高い――実際は分からないが――クラウドが陣営のサブリーダーを勤め、
光の戦士がいない場合の最終決定権は彼に移行される事になっている。
「分かった、任せとけ!」
 クラウドの言葉にバッツは溌剌に答えて了承し、ティナも彼女にしては力強く頷いて了承の意を示した。
 バッツは多芸多才だ。その芸の一つとして薬師の知識があり、この知識に皆はいつも助けられている。
ティナは貴重な白魔法の使い手である。ただ、力が不安定である為、
落ち着いた場所でしか使えないがそれを差し引いても有り余る程の力ではある。
「突入メンバーは俺とセシル、フリオニールとジタンだ。残りは野営地の防衛に充たってくれ」
「……少し、良いか?」
 終始無言を貫いていたスコールがクラウドの指示に意見する様に手を上げる、
クラウドはスコールに目を向けて頷き発言を許可する。
「救出を重点に置くならもう一人加えた方が良いんじゃないのか?両方が動けない場合という事もあり得る。
野営地の防衛ならいざとなればバッツもティナも攻撃に転ずる事も出来る」
 スコールの意見にクラウドは顎に曲げた指を宛てて考える仕草をする。
普段は無口だが、作戦について矛盾点や不備にはちゃんと意見を述べる。
「…そうだな。だったらもう一人はティーダ、お前だ」
「了解ッス!」
「任せたぞ」
 選ばれたティーダにスコールが言葉を掛ける、ティーダは親指を立てて口の端を上げた。
「以上で説明を終了する。今から十五分後に出発だ、各自準備を怠らないように。では解散!」
 クラウドの号令と共に全員が立ち上がった。

 目元がひりひりする、散々泣いた所為なのは分かっているけどやっぱりひりひりする。
 いつもの様に目を覚ますと光の戦士が目を開けて其処にいた。
いつも光の戦士が先に起きて自分が起きるのを待っていてくれている。
「…おはよう、ございます」
 あんなに泣きじゃくった後にそのまま泣き疲れて眠ったから少し恥ずかしく思う。
随分、子供じみた――今も子供だが――事をしたなと。
「ああ、おはよう」
 だけど光の戦士は普段と変わらない態度で接してくれる――意識してか無意識かは不明だが。
回していた腕を解いて起き上がり、ホライゾンブルーの髪を無造作に掻き上げる。
普段の人間離れして見える光の戦士が、この時には普通の人間に見えた。
 ぼんやりと見ているオニオンナイトの視線に気付いたのか、光の戦士はこちらを向いてじっと見つめる。
あまり感情を乗せない顔で見つめるのでつい身構えていると、
光の戦士が手を伸ばして自分の亜麻色の髪に触れてきた。
 基本、オニオンナイトは頭を撫でられるのは嫌いだった。
子供扱いされるからというのも理由だが、背の高い戦士達ばかりなので撫でる時は上から撫でられる。
背の高い彼等には経験あるのか分からないが上から手がというのは威圧的で結構恐怖でもある。
 だけど光の戦士のそれはちょっと違う、撫でるというよりは髪の中に手を入れて梳くという感じだった。
「ライトさん?」
「少し寝癖がついている」
 そう言って丁寧に何度も髪を梳く。それがくすぐったくてオニオンナイトが身を捩ると、
光の戦士の手は逃げるオニオンナイトを追い掛けて髪を梳くが、またくすぐったくて身を捩る。
「逃げるな」
 いつもより柔らかい――かなりと言っても良いかもしれない――声で嗜めて髪を梳いていたが、
急にその手を止めた。

 手を止め、肩越しに険しい表情をしているのでオニオンナイトは後ろを向くとイミテーションが立っていて、
オニオンナイトの顔が青くなった。そんなオニオンナイトの傍で光の戦士は立ち上がり、
腰布を手に取り巻き付ける。
「――ッ!行っちゃ駄目です、ライトさん!」
 外に出ようとする光の戦士に、オニオンナイトは腰布の裾を掴んで引き止めようとする、
行けばまたあの『行為』を強要される。引き止めるオニオンナイトに光の戦士は振り返り、
片膝をついて裾をしっかり掴んで離そうとしない手を両手で包み込む。
「行っちゃダメです…行かないで、貴方だけが苦しい思いをしているのを待つのは…もう嫌だ」
 俯いて言い募るオニオンナイトの心情を理解しているのかしていないのか、
光の戦士はゆっくりと両手で解いていく。
「あ…」
 最後の指が解かれてオニオンナイトが顔を上げる。研かれた剣の如く鋭く、
風の無い水面の如く澄んだ水浅葱の瞳で光の戦士が真っ直ぐ自分を見ていた。
「ありがとうオニオン、私を心配してくれて」
「ライトさん…」
 不安げなオニオンナイトのウォーターグリーンの瞳を光の戦士はしっかり見つめる。
揺るぎない信念を宿したその瞳は戦いに赴く際に見せるものだった。
「行ってくる」
 光の戦士は立ち上がり、扉をくぐり、迎えに来たイミテーションと共に歩いていった。

 パンデモニウムの入口に立つ五人は門扉を見上げていた。
「しっかし、相っ変わらず悪趣味な建物だよなぁ」
 ジタンが誰に問うわけでなく呟いた。ティーダは口をぽかんと開けながら巨大な門扉を見上げ、
フリオニールは何かが曖昧な記憶に擦るのか眉を寄せている。
そんな三人を放ってクラウドとセシルの二人は二人だけで話を進めている。
「頼むぞ、セシル」
「任せて」
 暗黒騎士の姿のセシルはクラウドから手渡された掌にすっぽり収まる程の小さな赤く燐光を発する石を左の掌に
乗せる。
「見えざる幻想の世界に住みし炎獄の主たる魔人よ、古より結ばれたる盟約の下、神秘の具現を我は望む。
我が口より語られし真名を拠り所とし、扉をくぐりて我が下へ!イフリート!」
 赤く燐光を発していた石が強く光りセシルの手を離れた。光は一陣の魔方陣を描き、
セシルの後ろに獣に近い姿をした魔人が現れる。魔人は咆哮を上げる、
セシルがそれに応える様に武器を掲げれば魔人は紅蓮の炎に姿を変え、掲げた武器は炎を纏う。
「波動を!!」
 掲げていた武器を両手で持ち、勢いよく地面に突き立てる。
紅蓮の炎は突き立てられた際に発生した黒い炎と混ざり、更なる炎となり門扉へ牙を剥き襲い掛かった。
轟音と共に門扉は崩れ去り入口を作り上げる。
「行くぞ」
 出来た入口に向かいながらクラウドが言い放つと、呆けていた三人は武器を構えて表情を引き締めた。

 廊下を歩くオニオンナイトは先を歩くイミテーションを見上げこっそり溜息を吐く。
光の戦士が皇帝に呼ばれてから数時間経って今度は自分が呼ばれた。
作品名:闇からの脱出 作家名:弥栄織恵