フェイクラヴァーズ
日野の依頼に、その場の空気が凍りついた。
「はぁ?そんなの、逆恨みされて私にまで被害が及ぶかもしれないじゃないですか!いやですよ。日野さんの為にそこまでする義理ないですし」
「そうね、私もお断りだわ」
女性ふたりは非情だった。
「あ、あの」
あてがはずれてガックリとうなだれる日野に、控えめに声を掛ける者がいた。細田だ。
「何だ?」
「僕なら構いませんよ」
「は?お前、男じゃないか」
「ですから、男にしか興味がないってことにすればいいんですよ!その方が効果があると思うなぁ、うふうふ」
「細田……」
一瞬、それが名案のように思えた日野だが、慌てて頭を振った。
「いやいや、それで俺がホモだって噂が広まったらどうするんだよ。却下」
「そんなぁ。じゃあ、どうするんですか?」
「いっそのこと殺してしまったらどうかしら」
「怖いことを言うなよ」
「けどそれじゃ、本当に彼女を作るわけにもいかねぇんじゃねぇの、お前」
新堂の発言に、日野は絶望しきったように頭を抱えた。
「そうなんだよな。恋人を危ない目に遭わせるわけにはいかない。そもそも今は女を作っている場合でもない。だがこの状態が続けば、受験を乗り切れるかわからない……」
それを聞いて岩下が「にも関わらず彼女の振りをしろだなんて持ち掛けたのは、私たちなら危険な目に遭っても構わないということかしら」などと言ってスカートからカッターを取り出した時だった。
「あ、あれ?みなさんお揃いでどうしたんですか?誰もいないと思ったのに……」
ドアを開ける気配に気付いた六人は一斉に振り返り、はじめからそちらに顔を向けていた日野は、唖然として闖入者を眺めた。
「お前……坂上か?」
気まずそうにドアを閉めこちらに近づいてきた後輩に、確認するように問い掛ける。こくりと頷いた坂上は、普段とはまったく違う姿をしていた。
肩に垂らした栗色の髪、前髪に留められたカラフルなピン、そして女子の制服。スカートの下から覗く白い太股まで舐めるように見つめてから、荒井がおもむろに提案した。
「日野さん、坂上君にお願いしたらどうですか?」
まさに天啓だった。興奮した日野は椅子を倒す勢いで立ち上がると、何故か女装している坂上に理由を問うのも忘れて詰め寄る。
「日野先輩……?」
「坂上……頼む、俺の彼女になってくれ」
「………………………………………えぇっ!?」
──頼み方が悪かった。