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きずあとの話をしよう

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俺はとにかく迷惑をかけたのだから謝ろうと顔をあげた、その瞬間、ぶわっとプロ
イセンの纏う空気が変質して一瞬で頬を打つような烈しさに変わり、同時にぐいっ
と乱暴なほどの力で腕を引かれ互いの身体の位置を入れ替えられた。
「えっ」
プロイセンに抱き込まれる形になった俺の耳に、直後にターンと数日前まで聞き慣
れていた高い音が聞こえて、ほぼ同じ瞬間にびくっとプロイセンの身体が揺れ、目
の前にバッと赤い血液が飛び散った。右肩。
「……っ!」
「プ、プロイセン!!」
「動くな!」
俺を抱き込み、標準を合わせてくるシャスポー銃に背中を向けたままのプロイセン
の腕は揺るがず、もがいてみてもちっとも緩まない。
ガチャ、と今度は俺の耳にも聞こえるボルトアクションの装填の音。プロイセン!
と声を荒げた俺の頭をぎゅっとそのほぼ同格の身体で隠すように押さえ込んだ。
そしてもう一度の銃声。
バシュッと空を切り裂いた弾丸が黒色火薬でプロイセンの右肩を再度焼いた。同じ
場所をあえて狙ったのか偶然なのかは分からない。けれど狙撃手にとって不運だっ
たのは最も警戒すべき場所はプロイセンの右手ではなく左手だということだった。
二発目が当たった直後に今度は身体の軸をぶれさせもせず、プロイセンは俺を思い
切り地面を突き飛ばして伏せさせ、俺でも見落とすスピードでもって護身用の拳銃
を左手で抜きざま身体を反転させた。
パン、とこちらは固い音が響き、エニシダの茂みがガサリと鳴った。それが狙撃手
が倒れた音なのか逃げ去った音なのか判断はつかなかった。俺の目はそちらを
捉える事はなく唯プロイセンの、血を噴出す肩から視線を逸らせなかった。
「プロイセンっ!プロイセン!肩がっ……」
すぐに立ち上がりプロイセンに駆け寄りながら地に落とされていたマントを拾い上
げ、びりりと裂いた。
「プロイセン!」
「ったく警備はどうなってんだ、皇帝の滞在する宮殿から目と鼻の先じゃねぇか」
だが、既に涙がにじんでいる俺とは正反対にプロイセンは自身の傷に頓着するより
先に、こんな所に敵に潜まれるなんざプロイセン軍の恥だと忌々しげに吐き捨てた。
「宮殿に戻るぞライヒ。ここら一帯はもう一度掃討させる。散歩の続きはその後だ」
な、とまたもあやす風に銃を収めた左手で俺の頬を親指でこすった。地に伏せた時
に土でも付いたのだろうが、そんな場合ではない。今この瞬間にもプロイセンの右
肩は火薬の熱に焼け、途切れた血管から命の運び手が零れだしているのに。
「……んな顔するなよ、俺が苛めてるみたいじゃねーか」
「違う!違う……俺、俺が、悪いんだ。こんなところに勝手に出てきて……」
だから残党兵なんかに狙われる羽目になったのだ。自分の身一つ満足に守れもしな
いくせに勝手な真似をしたからプロイセンが。
とうとう滲んだ涙がぼろりと一筋落ちた。傷の手当てもままならない。
「……ぅ……っ」
「何言ってるんだ。お前は正しいことしているんだぞ」
プロイセンはそっと俺の腕を押して歩くことを促しながら、正しいんだと繰り返す。
「お前は勝手にしていいんだ。したい事をして、望む道を進め。行くも退くも
 お前の好きにしていいんだ。誰もお前に強要しない、俺もだ」
「プロイセン……だって……」
「何も我侭放題しろって言ってるんじゃないんだ。ただこれからはお前が国を民を
 より幸福にする道を選んで作っていくんだ。お前が決める」
「………プロイセンじゃなく?」
「俺じゃなくて」
「…………」
「大丈夫だってお前一人でって言ってるんじゃない。たくさんいるだろう?お前と
 同じようにこの国を守り繋げていきたいと思う人間が、たくさんいる」
みんな協力してくれる。みんなで決めたらいいさ。そう言いながら迷いなく暗い夜
の森をずんずん進む。俺はついていくのに精一杯で、しかもプロイセンの肩に布切
れ一つ巻けていないのだ。
「でもそれは結構疲れっからな。たまにはこんな風に飛び出して息抜きしたらいい」
「……プロイセンも協力してくれるのか?」
「もちろん、お前が望むならな、ライヒ」
「ライヒは嫌だ。今までと同じがいい」
戴冠式直後から思っていたことをきっぱり告げる。それからプロイセンの左手
を握って、足を止めてもらった。
「だってあなたは俺の父であり教師であり……母でもある」
「は、母ぁ!?」
素っ頓狂な声を出すがそれも無視してプロイセンの背中側に回り、焼け焦げた軍服
は剥がさず、裂いたマントでぐるぐると局部と周囲を覆って縛り血止めにした。
それからまた左手を握り、今度は俺が先頭に立ってずんずん歩く。視界にはほの明
るい光が見えてきていて、もう俺でも迷わない場所だ。
「母はちょっとなぁ」
「そして同じ土地で同じ血を持つ、兄弟だ」
「……兄弟、か。それならお前は俺の弟ってことだなルッツ」
「ああ。そうだあなたの不肖の弟だ、兄さん」
立ち止まって顔を見合わせた。
もう一度兄さん、と言い慣れない言葉を舌にのせるとプロイセンはふふっとくすぐ
ったそうに柔らかく、少しばかりは困った風な顔になった。
そうして、いいかもなと言ってくれた。







あの日兄さんについた傷は思いのほか深く、傷痕は何十年経っても消えない。
本人が無事と確信したからこそ応急手当を後回しに俺を連れて戻った判断の通り、
動きや感覚に支障はないらしかった。
それでも皮膚を焼き肉を掻き回した痕は刻まれた。
醜い醜い傷痕。

この傷痕を俺が忌避しているか愛しているか。
その見極めは貴女方におまかせしよう。
ご清聴を感謝する。




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