夜のサイクリング
玄関の扉の前で、ニールはもうかれこれ15分程待ちぼうけを食っていた。
扉の向こう側で繰り広げられている様子は見なくても判る。
5つ離れた弟に、過保護過ぎるほどの愛情を降り注ぐ兄が、あれやこれやと忠告の言葉を繰り返しているに違いない。
そっと扉を開けて中の様子を伺うと、案の定、うんざりした表情を浮かべるハレルヤに向かって、熱弁を揮っているアレルヤの後姿が見えた。
「こんな時間に誰も来ないとは思うけど、ピンポンが鳴っても出ちゃ駄目だよ?」
「あぁ・・・わーったよ」
「明日が日曜日だからって、夜更かししてゲームしないようにね?」
「・・・わーった、わーった」
「ちゃんと歯磨いて、先に寝ててね?」
「・・・もう、わーったって」
「それから――・・・」
「あぁ~っ、アレルヤ?」
まだ続きそうなアレルヤの言葉を遮ったのはニールだ。
ヤレヤレと安堵するハレルヤとは反対に、温和な笑みを湛えながらも目が笑っていないアレルヤが振り返る。
「無理に家まで送ってもらわなくっていいぞ?今からなら終電に間に合うし・・・」
「そうはいかない。ちゃんと家に送り届けたのを、この目でちゃんと見届けないと安心できないからね」
「・・・はははっ・・・、そりゃどーも」
そう言って笑い合う二人は、傍から見れば友人を心配する仲の良い二人に見えるだろう。
けれども実際はそうではない、残念ながら。
引越しをしたニールが何かにつけ理由を作り、ハレルヤとアレルヤの家を訪ねていたそんなある日。
帰ると言って玄関を出たニールを見送った一時間後、ハレルヤの部屋で一緒にゲームを楽しんでいるニールの姿を発見したのだ。
帰ったと見せかけて、ハレルヤの部屋の窓から侵入したらしい。
それを知ったアレルヤの憤りっぷりといったらそれはそれは凄まじく、その光景がいつまでもニールの脳裏に嫌というほど刻まれたのは言うまでもない。
そんなこんなでハレルヤの部屋の窓の施錠強化と、遊びに来たニールを『家までちゃんと送り届ける』という二重のセキュリティをもってハレルヤを守るアレルヤが、こうしてニールを玄関先で待たせているわけだ。
「それじゃあ行ってくるね、ハレルヤ」
別れを惜しむかのようになかなか一歩が踏み出せないアレルヤに、とうとう痺れを切らしたニールがハレルヤに向かって声をかけた。
「ハレルヤ~!この前やったゲームの続編買ったから、今度持ってきてやるよ」
「マジで?!」
ぱぁっと表情が明るくなるハレルヤに、ニールの顔も緩む。
そんな光景を繰り広げるものだから、ハレルヤの視界からニールを遮る形でアレルヤはやっと玄関の外に出ることが出来た。
少し寂しげに振り返るアレルヤを励ますように、ハレルヤが言葉を投げかける。
「アレルヤ・・・、ちゃんと約束守って先に寝てるから、気をつけて行ってこいよ」
ハレルヤのこの言葉がないとなかなか動けないアレルヤもいつもの事で、弟にメロメロなアレルヤと、そんな兄の扱いに慣れているシッカリ者のハレルヤに、ニールは苦笑いを零した。