はじめての女生活
ミラン・フロワードは困っていた。
とある事件により男から女になってしまった自分の体。人目に付いてしまっては困るし、原因となった勇者の遺物の近くである王宮にしばらく部屋を借り、そこで生活することになったのだが。
フロワードは滅多な事では動じることがないが、流石のフロワードでも自分の体がいきなり女になってしまったら、混乱し狼狽するに違いない。と、予測できるが、そこはフロワード。別の事態で困っている。
いや、女になった事に付随する悩みなので、間違いではないが、フロワードはこの機会にシオンの世継ぎを作らせようと思い隙あらば襲うのみと考えている危険すぎる人物である事は明記しなければならない。
前置きが長くなったが、フロワードは困っていた。何に困っていたかというと・・・
「服の大きさが・・・合わないのです」
非常にどうでも良い事柄であった。
「すみません服云々は冗談ですよ」
「フロワードは意外と面白いんだなぁ」
部下についての思わぬ発見に、シオンは半眼になって笑う。
「俺を押し倒しておいて始めに言う台詞がそれかぁー」
シオンは今フロワードに押し倒されていた。夜の帳が落ちきった深夜。いつもの様に仕事漬けだったシオンの部屋に侵入者が入ってきた。
思わず身構えるシオンだったが、侵入者の方が一歩上手で、シオンはベッドに押し倒されてしまったのだ。
焦った顔で見上げると、そこにあったのは見知った顔。美しい顔を微笑ませるフロワードを見て、彼(?)がこっちのベクトルでも変人だと言う事を発見したシオンだった。
「まぁ今着ている服が小さくて替えを持っていないのには少し困っていますが」
「体だけ縮んで服は縮まなかったからな・・・」
「このサイズしか持っていないのです。それにここには他の服など流石に用意しておりませんし」
「うん、さっき・・・ってももう日付は越えたけど・・・昼間に女になったばかりでここにきたのも夕方だもんな。そんな状況で今の体型に合わせた服作れるとかそこまで用意周到だとは思ってないよ」
己を見下げる美女の顔を見ると意識が遠くなるが、意識を失ったら襲われる。シオンはぐっと堪えた。
「善は急げです陛下。世継ぎはさっさと作るに限る。私がまだ混乱していると油断しきっている陛下を押し倒すのは容易なこと・・・」
「フロワードなの知ってたからルシルが出てこなかったんだよなーくそその時点で何か気づけば良かった!」
フロワードの方が圧倒的にシオンより強いのだ。いくら女になって体力が落ちたからと言って、仕事に忙殺されて体の鈍りきってるシオンとフロワードでは、やはり子供と大人以上の差があるに違いない。
「貞操ぐらいの危機では介入してこないと言うことですよ陛下」
シオンの上にのっかったフロワードが妖艶な笑みを浮かべて言う。そんな女がするみたいな顔どこで覚えてきた!と叫びそうになるが、そういえばフロワードはいつもこんな顔をしていた。
フロワードは慣れた手つきでシオンの服をぬがしに掛かる。シオンは本格的に焦った。
「さぁ陛下・・・怖がらないで、私に全てお任せ下さい・・・」
「うわぁ本当の女だったら惚れてるかもーフロワードったら大胆!」
シオンも壊れてきている。
「惚れて下さって構いませんが、無事子供を作れて私が男に戻ったら忘れて下さいね」
こっちはもっと壊れてた。
シオンから見てフロワードのシオンを見る目は尋常でなく、やっぱり混乱してるんじゃないかと思うが、それを労ってやる余裕はない。シオンは本格的に抵抗し、なんとか隙を見つけて逆にフロワードを押し倒した。
「!!・・・陛下」
「・・・あのな、フロワード」
「大胆ですね・・・」
「違うから!」
力で押さえつける。筋力の違いでなんとかフロワードを組敷くが、いつ何時逆転されるか分からない。シオンは冷や汗をかく。
溜息をついて、やっと部下を労ることが出来るとほっとする。
「・・・やっぱりフロワード、お前混乱してるよ。俺なんかに逆に押し倒されるなんて」
しかしフロワードは冷静な口調でシオンを冷静にさせない言葉を言う。
「いえ・・・陛下が乗り気なら私としては大歓迎と思いまして・・・」
「それで組敷いたんじゃないから!」
シオンの行動は逆に誤解されていたらしい。
「いや絶対混乱してる!お前、本当に子供が出来たらどうするんだ!?一生戻れなくなる確率が増えるだろうが!それに妊娠できるとまだ決まったわけでもない!それなのに今過ちを犯して、お前が戻った後、どんな気まずい思いをするか・・・!」
フロワードは致した後男に戻る自分を想像して青ざめる。確かに収穫がなかった場合それは余りに痛い損失ではなかろうか。
「それは・・・確かに・・・」
「だろ!?」
恐怖するフロワードに我が意を得たりと頷くシオン。
「確かに危なすぎますね・・・効能が望んだ姿になるだけではないかも知れない。それなのにそんな状態で陛下と交われば陛下にも影響が出ないとも言い切れない・・・大変失礼いたしました」
寂しそうに言うフロワード。
「・・・いや、わかってもらえればいいんだ・・・」
シオンは力を抜く。
すると溜まっていた疲れや眠気に耐えきれず、フロワードの体に多い被さってしまう。
「・・・悪い・・・ちょっと、動けない・・・」
「陛下!?」
驚いたフロワードがシオンの体の下から声を上げる。
「あぁ・・・確かに可愛いな・・・」
寝ぼけてるシオンは、己の下にいる心配そうな顔に手を添える。頬を赤く染める美女にきゅんとなって小さく笑う。
あらがえない眠気に、直ぐにシオンは眠りに落ちた。久しぶりの睡眠だった。
残されたフロワードは途方に暮れた。多分、自分が女になった時以上に。
「・・・こんな状態で、私にどうしろと?」
顔の赤さは当分引いてくれなかった。
「お早うございます陛下」
「うんお早う・・・ってうわぁぁぁぁああああ!!」
微睡みの中からすっきり目が覚めた。声がしたのでそれに応え、目を開けると目の前にフロワードがいた。女性の姿で。
「・・・その様に驚かれなくとも・・・」
フロワードは不満げに言った。
「あ、いや、別に失礼な意味で声を上げたんじゃなくて、あの、」
シオンは上半身を起こし、ベッドの側に立っているフロワードの体をまじまじと見つめる。・・・え、女・・・?
そこで昨日の出来事をようやく思い出し、シオンは納得する。
「・・・悪い、ちょっと寝ぼけてた」
「左様ですか」
「あの、フロワードさん」
「何でしょうか」
何故彼(?)が自分の寝室にいるのだろう。
混乱してシオンを襲ったフロワードを拒絶した後、そのまま眠ってしまった。
フロワードを部屋から追い出さずに。
「あの後・・・何もない・・・よな?」
「・・・」
「目をそらすなぁぁああ!!!」
質問に答えず顔を背けるフロワードにシオンは心底焦った。
「・・・冗談です」
「何にもないんだな!?」
「えぇ。陛下が私を組敷いたまま眠ってしまわれたので、陛下を起こさないよう抜け出そうと思っていましたが、私もそのまま眠ってしまいまして」
「・・・・・・」
それで寝室にいらっしゃるのですねフロワードさん。
「いや・・・何もないならいいんだ・・・」
シオンは朝からぐったりしていた。