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しばらくは女生活

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医師の言うとおり、次の日には月のものの痛みは大分引いた。
大体一週間で出血も止まり、フロワードは久しぶりに落ち着くことが出来た。
慣れない感触に寒気や気持ち悪さをずっと感じていたのだが、それらから解放されて気分は晴れやかだった。
自分の屋敷に用があって戻ると、フロワードと同じく手鏡によって姿を変えられてしまった部下とはち合わせた。
「丁度良いところに。その後の体の調子はどうですか?」
若い(若かった)なりに優秀な彼女はにっこりと微笑んだ。
「特に異常は見られませんでした。他人と接触しても相手に異変が現れることもございませんでしたし、非常に快適でございます」
この女は将来もっと大物になるなとフロワードは思った。
「閣下におかれましては?」
「女性の生理的なものに悩まされたが・・・これといって異常は」
「まぁ閣下。月のものの大敵は冷えと鉄分不足・寝不足ですわ。お心に御刻みになりますよう」
「ほう」
やはり女性のことは女性に聞いた方が早い。フロワードはついでにもう一つ聞く事にした。
「生理がある・・・と言う事は、子供を産む事が出来る・・・と言う事か?」
「大体の女性はそうですけれど、稀に産めない方でも月のものがあったりしますわ。染色体の関係だったり子宮に問題があると産めませんわね」
「そうか・・・」
「産める産めないは本人でもわからないのです。避妊したつもりでも出来てしまった事例も沢山ありますし、何度子供を作ろうとしても一向に出来ない夫婦も山ほどおります」
「なるほど・・・」
それを聞いて少し落胆する。
部下の女は笑顔で何事か呟いた。
「BL・・・女体化・・・夢の様な職場だわ・・・」
フロワードは首を傾げ、同じくらいの身長になってしまった部下を見る。
「何か?」
「いいえ何でもございません。それでは失礼いたします」
一礼して上司から去るその作法は完璧であった。
「見た目というのは、ここまで人を変えるのですね・・・」
以前のどこか幼く自信のない様子を全く感じさせなくなった美女を見て、フロワードは少し恐ろしいものを感じた。

見た目が人に影響を与えるならば、今の自分の姿も人に影響を与えるのだろうか。
いつもの服とは全く違う変装様の衣服を身にまとい、フロワードは王宮を歩いていた。
「そこのお美しいご婦人・・・あなたの様に凛々しい方は私今まで拝見した事はございません・・・」
貴族の子息から声をかけられたのだが、始め自分に言っているとは気づかず通り過ぎようとする。しかし諦めの悪い貴族はあわててフロワードを追い、尚言い募る。
「お待ち下さい。この後の一時をご一緒させて頂きたい所ですが、そこまで無理は申しませぬ。せめてあなたのお名前をお教え頂けないでしょうか。できるならば貴女の微笑みも頂戴しとお御座います」
股間を蹴りつけてやろうかと一瞬思ったのだがなんとか堪える。
何を言えばいいのかわからず、思わず本音で語る目を貴族に向けてしまう。貴族は蔑んだ目で見られ何故か息を荒らげた。
「あああお美しい・・・貴女様の様な方にその様な目で見られ、感激にございます・・・!」
この場から逃げ出したくなった。
フロワードが困っていると、二人に声を掛ける者がいた。
「そんなに彼女を困らせないでくれないか?ジョージ家のご子息。彼女は・・・そう、私の客人なんだ」
「陛下!?」
ジョージ家の子息は仕える王の登場に慌てて膝をついた。フロワードも同じ様に膝をつく。
「さ、行きましょう」
シオンはフロワードに手を差し伸べ、輝く笑顔で言った。フロワードはシオンの手を取る。
「では」
ジョージ家の子息に茶目っ気たっぷりに笑うと、シオンは自室へフロワードを連れていった。

「・・・これで男色家の噂はなくなったよな・・・」
「大変申し訳御座いません陛下。あの様な所を・・・お助け頂くなんて・・・」
あの様な場面に遭遇すること事態が男として屈辱の極みである。フロワードは拳を握りしめ怒りに震えていた。
「ははっ、お前が彼をぶっ飛ばしそうな勢いだったからつい・・・悪いな」
「滅相も御座いません」
直ぐに冷静さを取り戻したフロワードは主人に向かって一礼した。
自室のベッドに勢いよく座り、シオンは乾いた笑みを浮かべる。
「昼間っからご婦人を自室に誘う女好きって噂が立ったかなぁ・・・」
「それは問題無いと思いますが」
「ないってことは・・・」
「少なくとも男色家の噂よりは」
「・・・」
確かにそうだなぁ。でもやっぱりどっちも嫌かなぁ。とは言えなかった。
シオンは今だこの部下が苦手であった。
「と、ところで・・・調子はどうだ?何か・・・異変を感じたりはしないか?」
「何も」
フロワードは首を振る。
生理から解放されてとても快適だった。
・・・といっても、男の時と比べたら快適とは言えぬだろう。女性は体が弱い。
ただ、生理の後で非常に調子がよい様に思える。
「ちなみにフロワード・・・お前、どうも城内で噂になっているらしいな」
「・・・なんですと?」
シオン曰く、王宮を彷徨いている美女は誰だか男共を中心に噂になっているという。
冷たい雰囲気のきつそうな美女。長い黒髪が美しくまさに大和撫子。
フロワードは頭痛がした。
「はははっもてる女はつらいなぁ!」
珍しく、シオンがフロワードをからかう。シオンは人をからかうのが非常に好きな性格だが、どうもフロワードにはからかわれてばかりだった。フロワードにしてみたらあまりからかっているつもりは無いが。
フロワードは噂にもショックを受けるが、自分に関する情報をシオンに教えられるまで気づかなかった事にもショックを受ける。
「噂する者をその場で確認できれば・・・すぐに首を切り落としてくれるというのに・・・」
「まてまてまて。落ち着け」
苦笑して、シオンはフロワードを見つめた。
確かにこれだけの美貌。立っているだけで噂になるのは仕方ないだろう。
「まぁ、それだけ可愛かったら目立つって。仕方ないさ」
シオンとしては慰めたつもりだが、フロワードはシオンの言葉の意味を掴みかねたのだろうか。言われてきょとんとした後、顔をぼっと赤らめた。
「そ、その様にからかうのはおやめ下さい!大体・・・男が可愛いなどと言われても誉め言葉にはなりません!」
照れるフロワードが新鮮でそれこそ可愛いなぁと思うのだが、そのフロワードの台詞で我に返る。
「そ、そうだよな・・・男が可愛いなんて・・・ははは、まぁ冗談だ・・・」
見た目の可憐さにつられ、ついフロワードが美しくとも男だと言うことを忘れそうになる。いや忘れた訳では無いのだが、元男でもいいかなと思わせる位にはフロワードは可愛かった。
というより、シオンの好みだった。
(まずい・・・非常にまずい・・・)
俺の脳味噌が。
ひきつった笑いをするシオンに、フロワードは首を傾げたのだった。


フロワードはまたあの部下に話を聞きに言った。
「あなた、性的な要素を使って接触している男が居ましたね?」
「はい閣下」
手鏡によって大人になった少女が返事をする。
接触し始めたのは、彼女が大人の姿になってからだ。短い間の中で、何かヒントになることがないだろうかと探る。
作品名:しばらくは女生活 作家名:ハクヨウ