帰宅時のアクシデント
もう血も止まって赤いラインを残すだけになってしまった左手。
(ここを静雄さん舐めたんだよな・・)
夕方の衝撃が冷めやらぬままに、ふらふらと部屋までたどり着いてため息をついた。
「あー、もうびっくりした・・・」
一人暮らしを始めてから独り言が増えた。
なんだか寂しい人間になり始めてる・・?と思いつつも、今日ばっかりは呟かせてもらいたい。
制服を着替えて冷蔵庫からお茶を取り出す。
冷たいそれを飲んで、ようやく一息ついた気分だ。
それにしても
「静雄さん・・なんであんなこと・・・?」
自分の左手を見ても何の変哲もないただの左手だ。
まぁ他の男子高校生からしたら小さいかもしれないけど(少なくても紀田君よりは小さかった・・)筋張りすぎてることもなく、丸まりすぎてるわけでもなく、ちょっとした傷もある(今だって傷のある)ただの左手。
「いくら消毒って言ったって他人の手なんて舐めれるのかな・・」
いや、静雄さんは舐めたんだけど。
すっごく失礼なことかもしれないけど、静雄さんって
「本能で生きてるからじゃない?っていうか帝人君に何してくれてんの死ね!って感じだよね」
「・・・え?」
聞こえるはずのない声が聞こえた。
顔を横に向ければ見えるのかもしれない、いや、見ちゃいけないかもしれない。
ほら、変態とかそういうのって注目されればされるほど嬉しいとか、そんな危険性あるかもしれないし。
って現実逃避に全力を注いでたっていうのに、不法侵入のその人は僕の顔を両手でひっつかんで、首をグキッと鳴る勢いで自分の方へ向けた。
「・・・っ痛いです、臨也さん」
「あははー、その痛みに歪んだ顔も、部屋に入るなりため息つくところも、お茶飲んで一息ついてるところも可愛いね!好きだよ!」
「いつからいたんですかあなたは。っていうかなんで僕の家にいるんですか!」
「もちろん帝人君が帰ってくる前からだよ。ちなみに君が帰ってきたときはバレないように押入れに隠れていました。男子高校生の生着替え堪能しちゃった!」
「・・・うわぁ・・もうこの人変態・・・」
「え、やだなぁそんなに褒めないでよ。照れるな」
「褒めてないです」
何が楽しいのかニヤニヤ笑いながら、僕の左側にぴったりとくっついてくる。
池袋に来たその日から(いやその前から)目を付けられ、気がつけば合鍵を作られ不法侵入される毎日を送っている僕としては、だんだん家に帰れば臨也さんがいるという状況に慣れ始めている(嫌だけど)(本当にうざいけど)
「で、なんでここにいるんですか」
「帝人君が好きだから?あと帝人君の手料理が食べたい」
「作れってことですか・・・」
「材料なら買ってきたよ。今日は暑いし涼しいものってことで素麺にしてみました」
流しそうめん!?いや流せないか狭いもんねー!、と子どものように楽しげに声をあげるいい大人(23歳って大人じゃなかったんだな・・)
とりあえず材料たちに罪はないということで(僕もお腹すいたし)料理を始めようと立ち上がると、くいっと下から左手を引かれた。
「臨也さん?」
僕の手をつかんで、まじまじと手のひらを見ている。
擦り傷の赤いラインが残る左手。
この部分を静雄さんが舐めたんだなぁと思うと、ちょっと、いやかなり恥ずかしい。
「もう血は止まってるみたいだね。よかった」
「はぁ、どうも・・っていうか臨也さん」
ん?と見上げてくる臨也さんはいつもの通りの端整な顔を、笑みの形に歪ませていた。
綺麗な顔立ちの割りにどこか嫌な感じがするのは、この笑い方がきっとダメなんだと思う(底意地の悪い笑い方だ)(無邪気に笑われても怖いけど)
でもそれよりもなによりも、さっきから気になっているのは
「・・なんで僕が怪我したこと知ってるんですか・・・・?」
「情報屋だからさ」
「つまり見てたってことですか?」
「うん。ビルの上でね。シズちゃんがあの男追いかけて始めてからずーっと」
(全然気付かなかった)
ぶつかったり倒れたり舐められたりで、周りを見る余裕なんて全くなかったけど。
「だからさ、あの男が君を押し倒すところも見てたんだよね」
「押し倒すっていうか・・ぶつかって倒れただけじゃないですか」
「どっちにしろ同じだよ。君を、下敷きにして・・ははっ、しかも怪我まで負わせた」
話しながらも臨也さんの顔から笑みは崩れない。
だというのに、目は笑ってなくて、冷たすぎる目の光にぞっとした(そういえばこの人って)
今更ながらに、目の前にいるこの人物が、とてつもなく危険な人間であったことを思い出す。
非日常の闇の中に足を突っ込んで、しかも自由に動き回っているような人なんだ。
大した力で掴まれているわけでもないのに、手首はぴくりとも動かないままで、臨也さんの秀麗な顔が手のひらに近づくのを僕はただ見つめていた。
「俺の見てるところでも、見てないところでも、怪我なんてしちゃ駄目だよ」
「・・・別にしたくて怪我したわけじゃないですよ。不可抗力です。あとこんなのは怪我のうちに入りません」
「血が出たら立派な怪我だと思うけどね」
「立派な怪我ってなんですか・・・」
僕のツッコミを軽く無視すると、臨也さんは僕の手のひら、傷の部分ではなくちょうど中央部分に、自分の唇を押し付けた。
静雄さんのような生々しいものではなく、子どものような、まるでお気に入りのぬいぐるみにキスをするように。
伏せられた睫の長さに、自分の置かれている状況も忘れて見蕩れてしまった。
「ん、おまじない完了」
ぱちりと目を開いた臨也さんは、男の僕でもちょっとドキッとしてしまうような綺麗な微笑を浮かべていた(なんとなく悔しい)
(ここを静雄さん舐めたんだよな・・)
夕方の衝撃が冷めやらぬままに、ふらふらと部屋までたどり着いてため息をついた。
「あー、もうびっくりした・・・」
一人暮らしを始めてから独り言が増えた。
なんだか寂しい人間になり始めてる・・?と思いつつも、今日ばっかりは呟かせてもらいたい。
制服を着替えて冷蔵庫からお茶を取り出す。
冷たいそれを飲んで、ようやく一息ついた気分だ。
それにしても
「静雄さん・・なんであんなこと・・・?」
自分の左手を見ても何の変哲もないただの左手だ。
まぁ他の男子高校生からしたら小さいかもしれないけど(少なくても紀田君よりは小さかった・・)筋張りすぎてることもなく、丸まりすぎてるわけでもなく、ちょっとした傷もある(今だって傷のある)ただの左手。
「いくら消毒って言ったって他人の手なんて舐めれるのかな・・」
いや、静雄さんは舐めたんだけど。
すっごく失礼なことかもしれないけど、静雄さんって
「本能で生きてるからじゃない?っていうか帝人君に何してくれてんの死ね!って感じだよね」
「・・・え?」
聞こえるはずのない声が聞こえた。
顔を横に向ければ見えるのかもしれない、いや、見ちゃいけないかもしれない。
ほら、変態とかそういうのって注目されればされるほど嬉しいとか、そんな危険性あるかもしれないし。
って現実逃避に全力を注いでたっていうのに、不法侵入のその人は僕の顔を両手でひっつかんで、首をグキッと鳴る勢いで自分の方へ向けた。
「・・・っ痛いです、臨也さん」
「あははー、その痛みに歪んだ顔も、部屋に入るなりため息つくところも、お茶飲んで一息ついてるところも可愛いね!好きだよ!」
「いつからいたんですかあなたは。っていうかなんで僕の家にいるんですか!」
「もちろん帝人君が帰ってくる前からだよ。ちなみに君が帰ってきたときはバレないように押入れに隠れていました。男子高校生の生着替え堪能しちゃった!」
「・・・うわぁ・・もうこの人変態・・・」
「え、やだなぁそんなに褒めないでよ。照れるな」
「褒めてないです」
何が楽しいのかニヤニヤ笑いながら、僕の左側にぴったりとくっついてくる。
池袋に来たその日から(いやその前から)目を付けられ、気がつけば合鍵を作られ不法侵入される毎日を送っている僕としては、だんだん家に帰れば臨也さんがいるという状況に慣れ始めている(嫌だけど)(本当にうざいけど)
「で、なんでここにいるんですか」
「帝人君が好きだから?あと帝人君の手料理が食べたい」
「作れってことですか・・・」
「材料なら買ってきたよ。今日は暑いし涼しいものってことで素麺にしてみました」
流しそうめん!?いや流せないか狭いもんねー!、と子どものように楽しげに声をあげるいい大人(23歳って大人じゃなかったんだな・・)
とりあえず材料たちに罪はないということで(僕もお腹すいたし)料理を始めようと立ち上がると、くいっと下から左手を引かれた。
「臨也さん?」
僕の手をつかんで、まじまじと手のひらを見ている。
擦り傷の赤いラインが残る左手。
この部分を静雄さんが舐めたんだなぁと思うと、ちょっと、いやかなり恥ずかしい。
「もう血は止まってるみたいだね。よかった」
「はぁ、どうも・・っていうか臨也さん」
ん?と見上げてくる臨也さんはいつもの通りの端整な顔を、笑みの形に歪ませていた。
綺麗な顔立ちの割りにどこか嫌な感じがするのは、この笑い方がきっとダメなんだと思う(底意地の悪い笑い方だ)(無邪気に笑われても怖いけど)
でもそれよりもなによりも、さっきから気になっているのは
「・・なんで僕が怪我したこと知ってるんですか・・・・?」
「情報屋だからさ」
「つまり見てたってことですか?」
「うん。ビルの上でね。シズちゃんがあの男追いかけて始めてからずーっと」
(全然気付かなかった)
ぶつかったり倒れたり舐められたりで、周りを見る余裕なんて全くなかったけど。
「だからさ、あの男が君を押し倒すところも見てたんだよね」
「押し倒すっていうか・・ぶつかって倒れただけじゃないですか」
「どっちにしろ同じだよ。君を、下敷きにして・・ははっ、しかも怪我まで負わせた」
話しながらも臨也さんの顔から笑みは崩れない。
だというのに、目は笑ってなくて、冷たすぎる目の光にぞっとした(そういえばこの人って)
今更ながらに、目の前にいるこの人物が、とてつもなく危険な人間であったことを思い出す。
非日常の闇の中に足を突っ込んで、しかも自由に動き回っているような人なんだ。
大した力で掴まれているわけでもないのに、手首はぴくりとも動かないままで、臨也さんの秀麗な顔が手のひらに近づくのを僕はただ見つめていた。
「俺の見てるところでも、見てないところでも、怪我なんてしちゃ駄目だよ」
「・・・別にしたくて怪我したわけじゃないですよ。不可抗力です。あとこんなのは怪我のうちに入りません」
「血が出たら立派な怪我だと思うけどね」
「立派な怪我ってなんですか・・・」
僕のツッコミを軽く無視すると、臨也さんは僕の手のひら、傷の部分ではなくちょうど中央部分に、自分の唇を押し付けた。
静雄さんのような生々しいものではなく、子どものような、まるでお気に入りのぬいぐるみにキスをするように。
伏せられた睫の長さに、自分の置かれている状況も忘れて見蕩れてしまった。
「ん、おまじない完了」
ぱちりと目を開いた臨也さんは、男の僕でもちょっとドキッとしてしまうような綺麗な微笑を浮かべていた(なんとなく悔しい)
作品名:帰宅時のアクシデント 作家名:ジグ