帰宅時のアクシデント
「・・・何するんですか。あと手、放してください」
「俺以外のヤツに触られませんようにっておまじない。おまじないって呪いって書くんだから、日本人の感覚って面白いよね」
「はいはい、そうですね。それでとっとと手を放してくれませんか」
「ん〜、いいよ?手はね」
「え・・っ!?」
そう言って手は放してくれたものの、臨也さんは立ち上がったままだった僕の腰にタックルする勢いで抱きついてきた。
1日に2回も男の人に乗っかられるなんて、なんて悪夢。
「ちょ・・っ、臨也さん!」
「ん〜、やっぱりいい感触。全く他の男に押し倒されるなんて君も油断しすぎ。この抱き心地は俺だけ知ってればいいのに」
「誰も知らなくていいと思いますよ、そんなの・・・」
「あとでちゃんと消毒しようね。帝人君に触れたもの、ぜーんぶ、ね」
飛びつかれて倒れこんだまま、お腹の辺りに懐く臨也さんの黒い頭を見下ろす(今日はこんなのばっかりか)
なんとなくその髪に触れてみれば、さらさらと悲しくなるほどに触り心地がよかった。
はぁ、と本日家に帰ってから2度目のため息をつく。
そろそろ素麺茹でに行きたいなぁとか、もしお腹が鳴ったら恥ずかしいなとか、考えだけはグルグルと頭の中を回るものの、この人を跳ね除けようとする気があまり起きないっていうのが、今日一番の危険だと思う(あ〜もう、暑いのになぁ・・)
「僕・・ほだされてますよね・・・」
「そのまま俺のものになっちゃうのをお勧めするよ」
「・・・嫌ですよ」
(素麺なんて茹でて野菜切るだけだし・・大した苦労でもないから、静雄さん呼んでみようかなぁ)
その後、ほんとに静雄さんにメールしてみたら10分も経たずに来てしまったとか。
お皿やドアノブが破壊されたとか。
ナイフが壁に穴を開けたとかは、また別のお話。
作品名:帰宅時のアクシデント 作家名:ジグ