ブラックアウト
「・・・・は?」
「はは、ホントに、え?って感じですよね」
僕は馬鹿なんだと思う(何言ってるんだろ)
だって僕自身は、静雄さんの好みとは真逆じゃないか。
当然女性が好きで、年上が好きで、言葉が嫌いな人だからきっと落ち着いた静かな人が好みだろうし、しかも僕は静雄さんが嫌になって抜けたダラーズの一員だ(むしろダラーズそのものだ)
あれ、好かれるどころか嫌われる要素のほうが多いんじゃない?と思って、落ち込んだ日々もあった。
さらに臨也さんの知り合いだし。
(あーもうこんな時も役に立たないよなぁ臨也さんって)
「すみません、困らせるつもりとかなかったんですけど。急に言いたくなっちゃって」
「・・・」
その綺麗な目を見続けることなんてできなくて、また通りのほうへ視線を移した。
入れ替わり立ち替わり、歩いていく人の中に、いつだって静雄さんのタイプなんだろうなぁと思うような女の人たちがいて。
僕と真逆なその人たちを見ていると、少しだけ悲しくなってしまった(この想いが叶うなんて夢物語、信じたこともない)
静雄さんが黙ったままなのがさらにその気持ちを重くしていく。
何度も何度も諦めようとして、期待、なんて言葉を固く固く心の奥底に閉じ込めてきたけれど、いざ伝えてしまうとこみ上げてくる感情に体が反応してしまう。
じわりと目の奥が熱くなってきて、体の震えを止めるために握りこんだ手のひらが痛かった。
「えと・・ごめんなさい」
「・・・」
「・・・・・すみません、本当に・・ごめんなさい。嫌な、思いさせて、ごめんなさい」
「・・・」
喉奥から漏れそうな嗚咽を消すために、細かく区切って言葉を話す。
でも泣くわけにはいかない。絶対にそれだけはダメだ(だってこの人は優しいから)
嫌わないで、許して、好きでいることだけ、許して。
たったそれだけが僕の望みだった。それとも、それすら許されないほどの望みなのだろうか。
(もう話したくもないのかな。それとも優しい人だからすごく困ってるのかも)
どうやって断ろうとか考えてくれてるのかもしれない、けど、でも結局嫌な思いさせてることに変わりない(困らせたいわけじゃ、なかったのに)
「ごめ・・なさ・・・っ、ごめん、なさい・・・あのっ、お願い・・です」
怒らないで。呆れないで。黙ってないで。
フラれることぐらい知ってるんだから、せめてあなたの声で僕を斬って。
「嫌いでも、気持ち悪いでも、なんでも、いいからっ、言って・・くださ、い。でないと僕、少しでも望みある・・んじゃないか、とかすごい馬鹿、な、こと考えちゃ・・・」
さぁ、僕の想いを殺して。
そう思ったのに、思っていたのに。
「好きだ」
大好きな人の、大好きな声が聞こえた。気がした。
だって、だって、そんなの(気のせいかもしれない、え、だって、今、何言った?)
「・・・・・・・ふぇ?」
水分が薄く網膜を覆っていて、静雄さんの顔がぼやけて見える。
だけど、その顔が真っ赤なのはわかった。わかって、しまった(うそ・・・うそ?)
体が勝手に反応して、ふるふると僕の首が横に振られた。
だって、そんなの信じられない。
僕だよ?と言いたくなる。女子高生でもない、ただのやせっぽっちの男子高校生だ。
あの通りにいる綺麗な女の人たちのような顔も体も、姿形の何一つも当てはまらない。
でも今静雄さんの目に映っているのは確かに僕で、そっと頬に触れてきた手は熱くて、
「なぁ、これ夢じゃないよな?現実だよな?むしろ嘘とかじゃねぇよな?」
「げ、現実です。夢では、ないはず・・です。あ、あの、もしかしたら僕が・・夢、見てるのかもしれません」
「俺も夢見てるのかもしんねぇ・・なぁ、お前俺のこと好きなのか」
「す、すき、です・・・・」
涙が引いていく。いや、フワフワしていてよくわからない。
でも何度まばたきして確かめても、今僕の目の前には、やっぱり顔を真っ赤にしている静雄さんがいて、真っ赤なのは僕のせいで?僕が?
「し、静雄さんも・・・あぁ、あの、その・・・・僕が」
「好きだ。すっげぇ好きだ。なぁ夢じゃねぇなら抱きしめてもいいんだよな?消えないよな、お前」
「だ・・っ、ぎゅ、ぎゅってしてください!!」
(今なら死んでもいい!!)
心の中の大絶叫が聞こえませんように、と考えながら(聞こえるわけないのに)
ホントに潰れるほど抱きしめられて、幸せな想いを抱えたまま僕の意識はブラックアウトした。
目が覚めたらセルティさんの家で、心配そうな2人と(岸谷さんはセルティさんが心配してるからってだけだろうけど)泣きそうな顔の静雄さんもいてくれて。
好きです、ともう一度告げたら「俺もだ」と返してくれた。
次に気絶するとしたら、きっと幸せすぎて倒れるんだろうなと呟いたら、俺のほうが幸せで死ぬんじゃねぇかなと言われてしまって、また少しだけ泣いてしまった。