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ハートを玩弄してくれるなよ 下

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 臨也にはわからない。少女が噛んで含めるように、出来の悪い生徒に教えるように言っていることが、理解できない。結局、そういう人間なのだ。少女が言うようなことを、無様だと、馬鹿みたいだと、滑稽だと、くだらないと鼻で笑って生きてきたのだから。
 少女はまっすぐに彼を見つめている。
「無様ですか。馬鹿みたいですか。滑稽ですか。くだらないですか。―――だから、何だって言うんですか」
 少女はベンチから立ち上がって、臆すことなく彼との距離を詰めた。
「ねえ、わかってますか。僕はあなたが好きだって言ってるんです。自分も、だなんて言わせません。あなたと一緒だなんて勝手に貶めないで下さい。一緒にするな。あなたが僕を好きじゃないことくらい知っています。言う気なんかなかった。それでも、あなたは僕に言わせた。返事なんて用意しないまま。ええ、もうどうでもいいんです。興味ないなら興味ないでかまわないんです。好きだとか嫌いだとかつきあうとかつきあわないとか愛だとか恋だとかはどうでもいい。けれど、言わせた以上あなたにはひとつだけ責任があって義務があります。他人の心を引っ張り出しておいて、遊びっぱなしなんかで済むはずがないでしょう。子供じゃあないんです。責任とは、答えることです。だから、僕は、あなたの答えを聞きに来たんですよ。臨也さん」
 竜ヶ峰帝人はふつうの少女だった。ふつうに生活して、ふつうに友人を大切にし、ふつうに恋人ができる、そんなふつうの日常を送っているかぎりはふつうで少しだけ臆病な少女だった。こうなった原因をあげるならただひとつ。折原臨也という人間が存在したことだ。そして、ふつうの少女の唯一ふつうじゃない点を挙げるとするならただひとつ。非日常との相性が過ぎた点だ。
 折原臨也はやっと、そのことを理解した。
 少女の目の奥は、底冷えする色合いできらめいた。

「あなたがやることはひとつだけです。出来る限り誠実に、僕を振ることです」







 結局、折原臨也と竜ヶ峰帝人は恋人同士という間柄になった。折原臨也は会心の笑みを浮かべて、竜ヶ峰帝人はさいていです、と嫌な顔をした。明かに、反応は逆転していて、奇妙に、いびつに、ねじれたままで終わった。関わった全員が苦い顔をして、折原臨也の勝手さを思う存分なじった。そうして、ひとしきり折原臨也を罵ってすっきりとしたところで、うん?と全員が首を傾げるのだ。何かしら、おかしかった。そこには明確な逆転がある。
 一連の事態を経て、果たして、自分の本意を貫いたのは、いったいどちらだったのだろう、と。