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殺風景な部屋は遮るものが無く、目を瞑っていても日差しが瞼裏をジリジリと焼いているのが分かる。
日も高く、眠るには適してはいない時間なのだが、激務をこなすには休み上手である事もマイスターとしての大事な資質である。
眠る体制に入ろうと刹那は息を深く吐き、意識を沈めていくが。
─ピピピ
端末から発せられる電子音に気付くと慌ててメッセージに目を通すが、内容が重要でなかったのかメッセージに目を通した後も何処かへ動く気配を見せない。
そして、刹那は少し眉を顰め、返信をすることもなくまたシーツの上へと倒れこみ小さく猫の子の様になって眠る体制へと入る。そして、ふうと小さく息を吐いた後。
｢──。｣
思わず呟いたその名は誰のものだったのか。
任務を問題なく完遂させ、報告書の提出を終えた刹那はイアンがエクシアの整備を行うのを手伝うか、それを窓越しから見守っているのが常なのだが、
今日に限ってはミッションがハードで疲れただけなのかうつらうつらと瞼が下がりそうになったりと本調子ではない。それが何度目か繰り返された時、
｢大丈夫か刹那。｣
ふいにかかった声と頭の上に降ろされた大きな手のひらの感触に虚を衝かれ、らしくもなく身を竦め、警戒するように置かれた手を叩き落とすがその相手に気付くと
｢すまない。｣とぽそりと一言言うと自己嫌悪するようにロックオンから目を背けた。
｢あー、大丈夫だって。｣
軽く当たった程度だからな。
そう言って、黒の革の手袋を付けた手をヒラヒラさせるが刹那の気は晴れない。
刹那はティエリアほどの完璧主義ではないが、刹那は戦いに関しては恐ろしい程神経質になることもある。
今回も例外では無いようで、超長距離攻撃を可能にさせる彼の手を叩いてしまった事が刹那にとって許しがたく反省の色を濃くし、
母親に怒られた子供の様にしおしおとする。
｢あぁ、くそっ、可愛いなぁ。｣
口に出せば怒られる事は目に見えているので出しはしないが、ティエリア然り刹那然り、うちのお子様は扱いが難しいと思うことも少なからずあったのだが、
年不相応に大人びている刹那であっても、彼の可愛らしい一面を見つけてしまってはそんな思いは何処へやら、思わず笑ってしまう。
｢ほーら、眠いんだろ、凭れていろよ。｣
妹も可愛くて仕方が無かったがこんな風に年の離れた弟がいても十二分に可愛いがったに違いない。
そうして刹那の小さな肩に手を回し胸に収めるように引くとぽふんと頭が軽くあたると、
ヒッと小さな悲鳴が漏れたような気がし俯きかけている顔を覗き込み表情を伺おうとした時、
─ウィン
長通路との境の扉が開く、
｢あ･･･。｣
そして、気まずい場所に居合わしてしまったような顔をするのはアレルヤ。
だが困ったような顔をしたのは一瞬だけでロックオンの胸の中の少年の表情を見ると少し表情を変えた。
｢ロックオン貴方は何を─｣
｢俺は何も。｣
咎めるような口調で近づいて来、問いただそうとするアレルヤを余所目に、
係わりあいにならないように刹那は腕を抜け出し歩いてくるアレルヤの横を足早に通り抜けていく。
｢｢あっ！刹那！｣｣
呼ぶ二人の声に足を止める事もなくあっという間に出て行ってしまう、そして彼の出て行った後、
カシャンと扉の閉まる機械音も心なしか強かったように感じる。
一寸呆けていた二人だが、
｢貴方は一体彼に何をしていたんですか！？｣
温厚な彼は何処へやら何やら、もう一人のマイスターを思わせる様な口調で眉を顰め問いただす。
｢何もしてない、何もしてないって！｣
両手をあげ手早く降参の意を示すが、アレルヤは引き下がらない。
｢何もしていないわけないじゃないですか！｣
訳も分からず腕の中の刹那には逃げられ、そして新たなる訪問者のアレルヤに来た早々から怒られてしまっては
“子供”のお守りで精神面の忍耐力を鍛えられてきたロックオンであっても良い気分はしない。
｢だから何もしてないって言っているだろ！｣
吐き捨てるように言い返す。
｢何もしていないなら、何故刹那が泣きそうな顔しているんですか！｣
鳩が豆鉄砲を食らったような顔、何処かの国でそんな表現の仕方があったと思うが
正にロックオンの顔はその表現に相応しい表情をしていた。
｢何で眠れないんだ、くそ。｣
身体を横にしていても思い通りにはならない。
身体は疲労が募り眠りたがっている筈なのに、アドレナリン大噴出で興奮状態の脳内はそれを許さない。
こんな自分が嫌だ、自己嫌悪しつつ背を壁に凭れ掛けさせベットの上に座るとそのまま曲げていた片膝に頭をつける。
頭と鼻に血が上れば思考力が落ち、少しは落ち着くだろうか。
不眠症に近い睡眠状態になったのは、過去、廃国であり祖国であったクルジスに居た頃やソレスタルビーイングに拾われたての頃に
過酷な生活やそのトラウマが所以となった悪夢に襲われる事ばかりであったが、六年という時間の経った最近ではそれも殆ど無くなった筈だった。
だが今回のこの不眠症の気の原因は違う場所にある様に思えてならないのだ。
悪夢ではないその夢に何度睡眠を妨害された事か。内容を明確に覚えているわけではないのだが登場人物のみは克明に覚えている。
飛び起きた後の胸の高鳴りは、今の鼓動に似ている。なぜなら─。
膝に乗せた額をずらし、顔を横に滑らせると左横に置いた端末のモニターに目をやった。
そして、ゆっくりと震える手で操作し保護済みのメッセージフォルダを見てみれば、差出人は同じ人物の名前ばかりが連なっている。
─飯食ったか？
そんな感じの実にどうでもいい内容。
─ジャンクフードばっかり食べてたら体壊すぞ、人間身体が資本なんだ。
何だったら俺が飯食いに連れて行ってやろうか？
地球に降りてのミッションの際に彼から来たどうでもいい内容のメッセージの筈。
｢ロックオン。｣
蚊の鳴くような声で彼は己を悩ましている問題の元凶であろう男の名前を呼ぶ。
何故自分は彼に心乱されるのか、アリーアルサーシェスと対峙した時とは違う意味での乱れ方だ。
何がそう己をも苦しめさせるのか。
｢俺はロックオンが嫌いなのか？｣
特別人を好くことも嫌う事もしなかった刹那にはこの感情が何を示すかも分からないのである。
眠れない程、一緒に居ると胸が苦しくなってしまうその理由が分からない。
憎む程の事を彼にされた覚えなど更々無いのに。
この感情をどう処理すべきなのか刹那は答えが出せずにいた。
そしてまた彼の名前を呟こうとした時、コンコンと扉を鳴らし
｢刹那。｣
今度は自分の名前が呼ばれた。それも、心悩ます彼によって。
｢戸は開けなくていいからそのまま聞いてくれ。｣
内ロックを解く為扉の方へ寄ろうとするが、それを見透かして入るのかどうかは分からないが彼はそれを制した。
｢何だ。｣
言われた通りにはするが出来るだけ近くに、扉に寄りかかって彼の話す事に耳を傾ける。
｢悪かったな。｣
｢何故謝る。｣
突然のロックオンの謝罪に刹那も戸惑う。
彼の訪問に高鳴った胸だったが、その高鳴りは不安へと姿を変える。
｢お前、俺の事嫌だったか？｣
泣きそうになるくらい。
日も高く、眠るには適してはいない時間なのだが、激務をこなすには休み上手である事もマイスターとしての大事な資質である。
眠る体制に入ろうと刹那は息を深く吐き、意識を沈めていくが。
─ピピピ
端末から発せられる電子音に気付くと慌ててメッセージに目を通すが、内容が重要でなかったのかメッセージに目を通した後も何処かへ動く気配を見せない。
そして、刹那は少し眉を顰め、返信をすることもなくまたシーツの上へと倒れこみ小さく猫の子の様になって眠る体制へと入る。そして、ふうと小さく息を吐いた後。
｢──。｣
思わず呟いたその名は誰のものだったのか。
任務を問題なく完遂させ、報告書の提出を終えた刹那はイアンがエクシアの整備を行うのを手伝うか、それを窓越しから見守っているのが常なのだが、
今日に限ってはミッションがハードで疲れただけなのかうつらうつらと瞼が下がりそうになったりと本調子ではない。それが何度目か繰り返された時、
｢大丈夫か刹那。｣
ふいにかかった声と頭の上に降ろされた大きな手のひらの感触に虚を衝かれ、らしくもなく身を竦め、警戒するように置かれた手を叩き落とすがその相手に気付くと
｢すまない。｣とぽそりと一言言うと自己嫌悪するようにロックオンから目を背けた。
｢あー、大丈夫だって。｣
軽く当たった程度だからな。
そう言って、黒の革の手袋を付けた手をヒラヒラさせるが刹那の気は晴れない。
刹那はティエリアほどの完璧主義ではないが、刹那は戦いに関しては恐ろしい程神経質になることもある。
今回も例外では無いようで、超長距離攻撃を可能にさせる彼の手を叩いてしまった事が刹那にとって許しがたく反省の色を濃くし、
母親に怒られた子供の様にしおしおとする。
｢あぁ、くそっ、可愛いなぁ。｣
口に出せば怒られる事は目に見えているので出しはしないが、ティエリア然り刹那然り、うちのお子様は扱いが難しいと思うことも少なからずあったのだが、
年不相応に大人びている刹那であっても、彼の可愛らしい一面を見つけてしまってはそんな思いは何処へやら、思わず笑ってしまう。
｢ほーら、眠いんだろ、凭れていろよ。｣
妹も可愛くて仕方が無かったがこんな風に年の離れた弟がいても十二分に可愛いがったに違いない。
そうして刹那の小さな肩に手を回し胸に収めるように引くとぽふんと頭が軽くあたると、
ヒッと小さな悲鳴が漏れたような気がし俯きかけている顔を覗き込み表情を伺おうとした時、
─ウィン
長通路との境の扉が開く、
｢あ･･･。｣
そして、気まずい場所に居合わしてしまったような顔をするのはアレルヤ。
だが困ったような顔をしたのは一瞬だけでロックオンの胸の中の少年の表情を見ると少し表情を変えた。
｢ロックオン貴方は何を─｣
｢俺は何も。｣
咎めるような口調で近づいて来、問いただそうとするアレルヤを余所目に、
係わりあいにならないように刹那は腕を抜け出し歩いてくるアレルヤの横を足早に通り抜けていく。
｢｢あっ！刹那！｣｣
呼ぶ二人の声に足を止める事もなくあっという間に出て行ってしまう、そして彼の出て行った後、
カシャンと扉の閉まる機械音も心なしか強かったように感じる。
一寸呆けていた二人だが、
｢貴方は一体彼に何をしていたんですか！？｣
温厚な彼は何処へやら何やら、もう一人のマイスターを思わせる様な口調で眉を顰め問いただす。
｢何もしてない、何もしてないって！｣
両手をあげ手早く降参の意を示すが、アレルヤは引き下がらない。
｢何もしていないわけないじゃないですか！｣
訳も分からず腕の中の刹那には逃げられ、そして新たなる訪問者のアレルヤに来た早々から怒られてしまっては
“子供”のお守りで精神面の忍耐力を鍛えられてきたロックオンであっても良い気分はしない。
｢だから何もしてないって言っているだろ！｣
吐き捨てるように言い返す。
｢何もしていないなら、何故刹那が泣きそうな顔しているんですか！｣
鳩が豆鉄砲を食らったような顔、何処かの国でそんな表現の仕方があったと思うが
正にロックオンの顔はその表現に相応しい表情をしていた。
｢何で眠れないんだ、くそ。｣
身体を横にしていても思い通りにはならない。
身体は疲労が募り眠りたがっている筈なのに、アドレナリン大噴出で興奮状態の脳内はそれを許さない。
こんな自分が嫌だ、自己嫌悪しつつ背を壁に凭れ掛けさせベットの上に座るとそのまま曲げていた片膝に頭をつける。
頭と鼻に血が上れば思考力が落ち、少しは落ち着くだろうか。
不眠症に近い睡眠状態になったのは、過去、廃国であり祖国であったクルジスに居た頃やソレスタルビーイングに拾われたての頃に
過酷な生活やそのトラウマが所以となった悪夢に襲われる事ばかりであったが、六年という時間の経った最近ではそれも殆ど無くなった筈だった。
だが今回のこの不眠症の気の原因は違う場所にある様に思えてならないのだ。
悪夢ではないその夢に何度睡眠を妨害された事か。内容を明確に覚えているわけではないのだが登場人物のみは克明に覚えている。
飛び起きた後の胸の高鳴りは、今の鼓動に似ている。なぜなら─。
膝に乗せた額をずらし、顔を横に滑らせると左横に置いた端末のモニターに目をやった。
そして、ゆっくりと震える手で操作し保護済みのメッセージフォルダを見てみれば、差出人は同じ人物の名前ばかりが連なっている。
─飯食ったか？
そんな感じの実にどうでもいい内容。
─ジャンクフードばっかり食べてたら体壊すぞ、人間身体が資本なんだ。
何だったら俺が飯食いに連れて行ってやろうか？
地球に降りてのミッションの際に彼から来たどうでもいい内容のメッセージの筈。
｢ロックオン。｣
蚊の鳴くような声で彼は己を悩ましている問題の元凶であろう男の名前を呼ぶ。
何故自分は彼に心乱されるのか、アリーアルサーシェスと対峙した時とは違う意味での乱れ方だ。
何がそう己をも苦しめさせるのか。
｢俺はロックオンが嫌いなのか？｣
特別人を好くことも嫌う事もしなかった刹那にはこの感情が何を示すかも分からないのである。
眠れない程、一緒に居ると胸が苦しくなってしまうその理由が分からない。
憎む程の事を彼にされた覚えなど更々無いのに。
この感情をどう処理すべきなのか刹那は答えが出せずにいた。
そしてまた彼の名前を呟こうとした時、コンコンと扉を鳴らし
｢刹那。｣
今度は自分の名前が呼ばれた。それも、心悩ます彼によって。
｢戸は開けなくていいからそのまま聞いてくれ。｣
内ロックを解く為扉の方へ寄ろうとするが、それを見透かして入るのかどうかは分からないが彼はそれを制した。
｢何だ。｣
言われた通りにはするが出来るだけ近くに、扉に寄りかかって彼の話す事に耳を傾ける。
｢悪かったな。｣
｢何故謝る。｣
突然のロックオンの謝罪に刹那も戸惑う。
彼の訪問に高鳴った胸だったが、その高鳴りは不安へと姿を変える。
｢お前、俺の事嫌だったか？｣
泣きそうになるくらい。