貴方の色で私を染めてください
ぴくり、と絳攸は歩みを止めた。
震える指が、自分の服を握りしめる。
不安げな瞳は、夜空に懸かる真円を捜す。欠けたところがないそれと、それに照らされる自身の影を見比べながら、絳攸は今自分が立っているところが、目的地であることを再確認する。
はあ、と溜息を一つ。なぜ、自分はこんなところに来ようなどと思ってしまったのか。
この廊下を渡りきれば、そこにたどり着く。ここからでも、そこの眩しい明かりが目に入る。匂いを嗅げば、粉おしろいと、甘く淫らな夜の香り。
そう、ここは後宮である。
「馬鹿馬鹿しい」
口から、こぼれ落ちた小さい愚痴は、足を止めるまでには至らず、夜風に吹かれてかき消された。
そして、表情から迷いを消す。
そうだ、あいつに言ってやらなければならないのだ。俺は……
……Veuillez me teindre avec votre couleur……
作品名:貴方の色で私を染めてください 作家名:Kataru.(かたる)