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これは実験なんです

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折原臨也は考えていた。

自分は人間が好きだ。愛してる。人間を翻弄させて、揺さぶらせて、感情を吐露させて、ぶつかりあうさまを見るのが好きだ。そういう趣味が世間一般の評価として「最低ですね」であることは一応知っている。非常に心外だが。でもまあ、こんな自分を崇拝する女の子も、それこそ掃いて捨てるほどいる。
つまり、よりどりみどりだ。当然だよね。なのに。

「でもやっぱり好きなんだよなあ」

臨也はつぶやいてデスクに頬杖をついた。チェアに浅く腰掛け、視線はさっきから同じ方向を向いている。デスクトップ型PCの向こう側には、制服を着た少年が一人。

臨也は手元のPDAに目を落とした。
「竜ヶ峰帝人」の項目は、彼に現実世界で初対面してから、順調に文字数を増やし続けていた。身長体重行動履歴はもちろん、好きなもの嫌いなもの興味のあるもの行きたいところ昨日食べたもの、あらゆる情報の宝庫と化している。本人が見たら蒼白になって、怒鳴るか、無言でデータ消去するか、どちらかだ。ああ、そうだ、いつか試してみたい。臨也はToDoリストにメモした。

数ヶ月前に、「ゲームやろう」という名目で事務所に連れ込んで以来、帝人は今では事務所の半常連になってしまった。臨也がいちいち理由を付けて校門前その他あらゆる箇所で彼を待ち伏せて拉致るからだ。帝人はその度に、やや戸惑った顔をするものの、結局断ったことはなかった。それはもちろん、彼を釣る餌を心得ているからだ。
ちなみに今日は某社から発売されたばかりの最新型タブレットマシンだった。
臨也は再び視線を帝人に戻した。
カーペットにぺたりと座りこみ、臨也に横顔を見せて、熱心に端末を操作している。最初に「思ったより軽いですね。でも大きいなあ」と感想を一言、二言もらし、「勝手に使って良いよ」という臨也の言葉に感謝の念を示したあとは、ずっと無言で没頭していた。臨也の凝視にも気づかない。それをいいことに、臨也は彼を心置きなく観察し続け、30分が経過しようとしていた。そろそろ我に返る頃だろうか。

臨也がそう思ったとき、帝人がぱっと顔をあげて、臨也を振り返った。
「わあ、すいません!なんか夢中になっちゃいました」
顔を少し赤らめ、あわてて機器から手を離す。臨也はにっこりと笑顔を返した。
「別にいいよ。おもしろい?俺はまだほとんど使ってないんだよね。携帯には不便だからさ」
帝人はすぐにまじめな顔になると、それに目をやり、手を伸ばしてそのふちをなでた。
「大きいですよねこれ。長い間持ってると手が疲れますけど、操作性は悪くないですし、アプリケーションがたくさんあって、おもしろい、と思います」
それから臨也に顔を戻して、少し笑った。
「でも、すぐに飽きちゃうかも知れない」
「君が?」
「僕も、臨也さんも。役に立たない楽しいアプリはたくさんあります。でも、そういうのは一回で十分でしょう?」
うん、そのとおり。
臨也は心の中で賛同した。立ち上がり、デスクを回り込んで、帝人と頭をつき合わせるように情報端末を覗き込む。帝人の指が画面を軽くさわった。その動きにあわせて画面がめまぐるしく変わっていく。軽やかに動く指先を見つめていると、やがてひとつの表示で止まった。
「これは使えるかも。管理とかに」
ダラーズの。最後の言葉は音になることはなかったが、二人にはわかっていた。もちろん、それで十分だ。役に立たないものは必要ない。この現実的なところ、容赦のないところ、理知的なところ、普段からの様子とは結びつかないそれらの要素が帝人には備わっている。その一面を垣間見ることが、臨也はたまらなく好きだった。

帝人は臨也を見上げた。
「臨也さん、僕に何か用事があったんじゃないんですか」
臨也はふいを突かれて少し驚いたが、表情には出さなかった。にこやかな笑みを浮かべたまま答える。
「そりゃ、用事があるから呼んだに決まってるよ」
「ええ、そうですけど、でも何か、他に何かあるんじゃないですか?」
鋭い。実はそうなんだけど、いきなり本題言ったら絶対逃げられるだろうなあと予想し、臨也は黙ってその場にしゃがみこんだ。何の前触れもなく、タブレットに添えられていた帝人の手を軽くつかむ。そのまま持ち上げて、自分の手のひらと相手の手のひらを付き合わせた。
「ちっさー。まあ俺の方が背が高いから当然だけど」
確かに、臨也の指は帝人のそれを少しはみ出している。インドア派だからだろう、帝人の手は傷もなく日に焼けてもおらず、きれいだった。帝人は目の前の意味不明な行為についていけず、ぽかんとしている。
「なんですか、これ」
「さっきの話だけどさ、役に立たない玩具は飽きるって話ね。正解だよ、帝人君。俺はそういうのすぐ飽きて、忘れちゃうタイプなんだよねえ。だって時間の無駄だし?得るものもないし」
帝人は目を丸く見開いて臨也を見つめた。その視線を心地よく感じながら、臨也は続けた。
「だからさあ、これもすぐ飽きちゃうかな、と思ってたんだよ。でも違った。ここ何ヶ月かずっと見てきたけど、飽きるどころじゃない。もっと見ていたい。もっと知りたい!君を!俺は君をもっと知りたいんだ!ああ、本当に!こんなことがあるなんて俺は思いもしなかったよ!」
「あの、何の話ですか」
だんだん興奮して一人でしゃべりまくる臨也に、帝人は不安を感じ、身を引こうとした。だが、あわせたままだった臨也の手のひらが急に強く帝人の手をつかみ、それを阻止される。帝人は緊張でじんわりと汗が吹き出てくるのを感じた。かたや、臨也はどこまでも笑顔だ。
「はは、わからない?うん、別にわからなくていいよ。わかってもらおうと思ってるわけじゃないからね。ただちょっと協力してもらいたいだけ」

作品名:これは実験なんです 作家名:れいと