これは実験なんです
臨也は帝人の返事を待たずに、握った手を、手前に引いた。帝人が小さく声をあげ、体が傾く。その細い体を引き寄せて、唇に自分のそれを押し付けた。わずかに乾燥してかさついた感触。リップぬったほうがいいな、と臨也は冷静に考えた。わずかコンマ数秒後、帝人の左腕が、思い切り体を押した。一瞬だけ唇が離れる。案外、反応が早い。相当動揺した様子で、震えた声を上げる。
「なにを、」
抗議の声を待たずに、臨也は右手を帝人の後頭部に回して乱暴に引き戻し、上向かせてもう一度口付けた。今度はさっきよりも強く。帝人の左手が、臨也の服をつかんで、弱弱しくひっぱる。右手を振りほどこうとするのでしっかり握り締めると、ふさいだ唇からくぐもった呻き声が上がった。唇の表面に軽く舌を這わせると、抱え込んだ小さな体が跳ねた。この時点で舌を入れるのはさすがに早急と判断すると、臨也はいったん帝人を離した。ただし、手はつないだままだ。
ぷはーという、色気の一ミリもない息が帝人の口から漏れる。
距離を取るように、左腕を臨也の胸につっぱって、下を向いたその顔がみるみる赤くなる。臨也は忍び笑いした。
「いざやさ、んっ」
「何」
「何って、何って言いたいのはこっちです!!こんな、何をいきなり・・・っ」
帝人は下を向いたまま、つかえつかえ、問いを発した。臨也の目が見られない。臨也はそんな帝人の様子を心底楽しげに見つめた。ここまでうぶな反応をされると嗜虐心が沸いていじめたくなる。
「チューくらいでそんなになっちゃってどうするの、これからもっとすごいことするのに」
帝人が勢いよく顔をあげて、信じられないものを見るように臨也を見た。臨也は二人の間にあったタブレットを横にほうると、距離を詰め、帝人のネクタイに手をかけた。帝人が喉を鳴らして、乾いた声でたずねる。
「臨也さんって、同性愛者なんですか」
なんだ、結構冷静だ。臨也はますます楽しくなった。
「いやー?特に男が好きってわけじゃないよ。人間は誰でも好きだよ。でも今、特別に好きなのは君なの。君をもっと知りたいんだ。ねえ、」
臨也は薄く笑いながらまっすぐに帝人を見つめた。不安と、緊張を含んだ視線が返ってくる。静かな音を立ててネクタイが帝人のひざの上に落ちた。
「俺、ここまで誰か一人を好きだと思ったの初めてなんだよね。でもそれが高校生で、しかも男っていうのは自分でもちょっと驚き。だから、帝人君で自分が興奮できるか試そうと思って」
言いながら、シャツのボタンを順々に外していく。余りの手際の良さにぎょっとして、帝人はうっすらと涙目になった。
「い、いや、です!僕は臨也さんのこと、そういう風に思ったことないです!!」
「大丈夫だって、気持ちよくしてあげるよ。俺も男は初めてだけどなんとかなるって」
「なりません!!ぼ、ぼぼぼく」
「童貞でしょ、知ってるよ」
帝人が思い切り傷ついた表情になった。この年頃には丁重に扱うべき話題だが臨也は一向に意に介さなかった。
「君のことだからこの機会逃したら普通に高校生活童貞で終わるよ。そしたら大学とかでそういう話題になって、困っちゃうよきっと」
だからって男と初体験。無理だ、と帝人が叫ぼうとしたところで、臨也が首筋にかみつき、そのまま床へ押し倒した。いつの間にかベルトが外され、下から手が侵入している。素肌に臨也の骨ばった指が触れるのを感じ、帝人は反射的に目をつむり、身をすくませた。
「あっは、かわいいなあ。安心して、いきなり突っ込んだりしないから。ていうか、俺が入れるほうでいいよね。逆は認めないよ」
「いざや、さ・・・」
もう一度、キス。今度は舌を入れた。適当に絡ませて離すと、帝人が涙目のまま臨也を殴ろうとした。それを難なく受け止める。
「なんなんですか!!なんですかこれっ!!」
「だから、さっき言ったじゃない。試すんだよ」
もう、結果はわかっちゃったけどね。