【津軽サイケ】1.はじめてのおと~Prelude~
1.はじめてのおと~Prelude~
世界が光を認知した。
それが目を開けた瞬間だった。
しばらくして世界には上と下があると知った。
それが立ち上がった瞬間だった。
そして音を知った。
それが最初に歌った歌だった。
カチャっと音が聞こえた。
その音に僕は後ろを振り返る。
だってその音は大好きな大好きな音だったから。
「臨也さんっ!!」
「ああ、サイケ起きてたのか。おはよう」
僕の名前はサイケ そして僕にこの名前を付けてくれた人が臨也さん。
僕達は初期プログラムでは名付け親の事を【ご主人様】と呼ぶように設定されてるけど。
-「はじめまして【ご主人様】」
-「はじめまして、ああ、でもその呼び方はちょっとなぁ……別に主従関係が好きとかじゃないし…臨也でいいよ」
-「臨・・・・也・・・・」
そこまで発音するとフルフルと首を横に振る。
-「【ご主人様】の【名前】をそのまま呼ぶなんて出来ないですっ!」
慌ててクルクルと部屋を回ってヘッドフォンのコードをあちこちに絡まらせて最終的には転んだ僕。
僕を見て、あの人は笑いながらいった
「じゃあ、臨也さんでいいよ。それなら呼べるでしょ?」
「臨也さん……」
その言葉の響きはとても心地よくてバロック音楽みたいな音。
頭の中でその音を何回も繰り返した。
「臨也さん、臨也さんっ」
そのうちの幾つは音に出てしまったらしく、その度に臨也は苦笑した。
その笑い声で初めて自分が口に出していたと気づき、僕は少しだけうつむいた。-
あの日以来僕は、ずっと臨也さんと呼んでいる。
「ねえ、臨也さん、その扉の向こうって何があるの?」
臨也が入ってきた扉と反対側の青い扉。
内装に不似合いな空みたいな色。
「ああ、うーん、ちゃんと帰ってくるなら出てみてもいいけど?」
「ちゃんと帰ってくるもんっ!」
「帰り道……覚えてる?」
「……お、覚えて……ないです」
しょぼんと下を向いたサイケに苦笑しながらも、臨也は一枚のカードを渡した。
「はい、帰ってきたくなったらコレ見れば帰ってこれるから」
それは小さな外出許可証。裏には道順が書いてあった。
「ありがとうっ!!臨也さんっ!!」
そして出会う。
自分とも
いつも耳に聞こえる大好きな臨也さんの音とも違う
青い扉と同じ色の服を着た人
「んあ?誰だテメー」
でもその音は
嫌いじゃなかったから
「僕ね、サイケっていうんだ!君は?!」
楽しかった。
外の世界を知った事が
「名前か、津軽島……めんどくせーから津軽でいいや」
その音が心臓の奥底まで綺麗に響いた。
=END=
作品名:【津軽サイケ】1.はじめてのおと~Prelude~ 作家名:伊月