いきたがりさみしんぼ
だけど彼女は生きたいわけで死にたいわけではないらしいので(ややこしいわね、よくわからないわ)、こんなことを教えたところでどうなるものでもないのだけど。妹紅はそうか、とつぶやいて、そっと、自分の手をわたしの首においた。だけど依然殺気はないので、わたしは放っておく。
「ここをきればいいのか」
「そうね、首をはねたら、不死の身でも、死ねるわ」
ぐっと妹紅の手にちからがはいったので、眉間にしわがよってしまった。ばか、絞めるんじゃない、はねるのよ。この鳥頭め。わたしは妹紅の手首にそっとふれた。脈がうっている。
「なあ」
「なによ」
「おまえは死にたいとおもったことないのか?」
「・・・あるわよ」
たくさんあるわよ。どんだけ苦しい思いをしても、また息を吹き返す。大好きなひとに、憎まれたとき、いっそ死ねたらとどんなにおもったことか。だけどそれは叶わずにわたしはまた何千年という時を過ごすのだ。
「そうか」
「そうよ」
妹紅の手がはなれる。そうして、わたしの上からも降りる。急に体温がなくなって、すこし寒くてふるえた。
「妹紅」
「なんだよ」
「だけど、あんたは死んじゃだめよ」
思ったより切羽詰まった声がでてしまった。妹紅は、少し驚いた顔をした後、ははっと笑った。あ、笑顔をみるの、何百年ぶりかも、しれない。
「おまえわたしを殺しにかかってくるくせに」
「そうよ、あんたを殺すのはわたしよ」
「・・・じゃあ、とっといてやるよ」
さいごに小さく笑って、妹紅はまた竹林の中へと帰っていった。とっておくって、なにを、いのちを?ほんとうに人間とやらの考えることはわからないわ。いやあの鳥頭がただおかしいだけなのかしら。わたしはまだ立ち上がる気力がわかないので、ゆがんでいない月がでている空を眺める。死にたいとおもったことは、たくさんある。だけどそれより生きたいとおもう方が強かったのは、何千年も、そばにだれかがいてくれたからだ。
(あんたが死ぬまで何千年、つきあってあげるわよ、妹紅)
見上げた空に、動くものがみえる。ああ迎えだ。また怒られるのかなあ。わたしは降りてくるそれに向かって微笑んだ。
「遅いわよ、永琳」
作品名:いきたがりさみしんぼ 作家名:萩子