幸福な食卓
綱吉の前に、着々と料理が並べられる。
きのこと野菜の味噌汁、出汁巻き卵、それから炊きたてのご飯。
一見少ないようにも見えるが、二人してご飯と味噌汁をお代わりするのでそれで量は充分なものになる。
最後に湯飲みにほうじ茶を注げば、食卓は完成する。
「「───いただきます」」
ボンゴレ本部では滅多に食せない、由緒正しき日本食。
両手を合わせてお辞儀をして、箸を手に取る。
香りに誘われて、綱吉が最初に手にするのは決まって味噌汁。
一口すすって、ほう、とため息をつく。
「美味しいです」
「そう」
素っ気ない口調だが、ご飯を頬張る雲雀の口許は微かに緩んでいる。
ほくほくした短冊切りのジャガイモと玉ねぎの甘み、しめじの歯応えが何とも言えないバランスで。
「味噌汁、美味しいです」
「ふうん」
「出汁巻き卵も、甘さが丁度良くて美味しいです」
「……」
「ご飯もふっくらしてて、美味しいです」
「…そんなに言われると有難味が薄れるんだけど」
「でも、本当に美味しいんです」
「…そう」
どこか呆れたように雲雀が呟くのも、いつものこと。
こうして二人で食べる時間が、もう少し増えればいい。
そうしてそれが毎日になり、当たり前になればいい。
「恭弥さん、お代わり注ぎましょうか」
「うん」
綱吉が雲雀の汁碗を受け取り、席を立つ。
鍋のあるガスレンジは、雲雀の席の後ろにある。
「恭弥さん」
「ん?」
振り向かせて、口づけて。
今は未だ周りがそれを許さないけど。
遠くない未来、いつかそんな幸福な食卓がふたりで囲めると良い。
それを願っているのは、綱吉だけではないはず。
「はい、どうぞ」
「うん」
お代わりを注いだ汁碗をことりと置いた綱吉の手を引いて、口づけて。
───ありがとう。
囁くように、雲雀はいつもそう返してくれるから。