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Snow on Soul ―特別なもの―

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「クル姉も、私も、今は大丈夫だと思う。人気の占いとは言っても、そんなことを言ってるのはその中でも人気のない人ばっかりだし、街の人もそこまで占いを信じているわけでもなさそうだったから。」
「・・・ふーん。そう。」
 そう。今は、大丈夫だと思う。しかし、変化というものは少なからずどこでも、何にでもあるわけで、その変化次第では街がどうなるかは分からないのだ。けれども、今は大丈夫。今は、大丈夫。そのことは絶対に兄に伝えなければいけないことだった。
「くくっ・・・あはははははは!!」
 しばらく、何かを考えるよに黙っていたイザヤは、ふつっと何かが緩んだように肩を震わせて笑いはじめた。そのことに、戸惑いを覚えないわけではなかったが、じゅうぶんに予想のできる範囲だった。
「あはは!!まったく、これだから人間は面白い!!あんなことがあったっていうのに!だから、俺は人間を愛してる!!そんなバカな所も含め、愛してる!!」
 狂ったように笑っている間は、まだ大丈夫だ、とクルリもマイルもそっと顔を見合わせて息を落とす。イザヤは、あの冬の日から、まだ立ち直ってはいないのだ。
 綺麗な、美しい人だった。顔立ちが、というわけではなく、雰囲気が。凛として、綺麗に、美しく笑う人だった。兄が好きになったのも、頷けるような人だった。けれども、彼女は連れ去られてしまった。その短い生を、兄は最後まで見届けるのだろうと思っていたけれども、その終わりはあまりにもあっけないものだった。兄の隣で、幸せそうに生まれてくる子供に話しかけていた。その笑顔は、あの冬の日にバカとしか言いようのない占いに奪われてしまったのだ。
 クルリは、未だに肩を震わせて笑っている兄と、それを不安げに見ている妹を見やる。あの日、傷だらけで生まれてきたばかりの赤ん坊の助けを求めてきた彼の女性と、その彼女を抱きしめている母は誰よりも強く見えた。そして、小さな体温を抱きしめている兄は、誰よりも自分を責め、苦しんでいた。その兄をどうにか立ち直らせたのは、当代である父だった。結局、あの時、何もできなく一番無力だったのは自分だちだった。
 だから、誓ったのだ。兄はまだ、とらわれている。思い出の中に、求めている。いつも、なんだかんだと自分たちに優しかった兄が、苦しんでいる。ならば、自分たちが守ろうと。兄が、必死で守ろうとしているものを守るのだとふたりでこっそりと誓ったのだ。
 それこそ、まだ人の認識すらはっきりしない頃から、毎週交替で手紙を送っている。旅先からはちいさな絵を描いたり、その土地の名物の話を書いて送る。血のつながらない弟がうまれた時にお祝いに行った際、ちいさな頬をつつくと、いじめちゃだめ、と言って必死に弟を守ろうとしていた。最近では、養父母から字を習っているらしく、彼からの代筆である養父母の字の最後には、拙い字でサインが書かれている。
 最初にシズオ、と書かれたその字とどうしても自分が書くといってきかなかったとの文面を見た時には、柄にもなく嬉しさのあまり、ふたりで抱き合って泣いた。この子は、愛されている。愛され、そして弟を愛し、周囲を愛し、自分たちの事も大切に思ってくれている。
 例え、どんな呪いの血が流れていようとも、この子供なら乗り越えて行ける。そう、ふたりで頷いて泣いたのだった。
 だから、お願い。誰も、あの子のことを邪魔しないで。自分たちを愛してくれている兄が、唯一愛した人が必死に守った子供だから。愛され、愛することをしっている優しい子供だから。
 クルリは、ぎゅ、と拳を握り、誰へとも宛ての無い祈りを、ただ、捧げるだけだった。

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